netfilms

ビバリウムのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
3.9
 餌を啄ばむカッコウの映像に突如挿入されたドギツイ赤字の人工的なタイトルの配色の組み合わせが、この監督の非凡な才能を露わにする。その後もトリッキーで得体のしれない不穏な出来事を、グラフィックに長けた絵力でぐいぐい魅せて行く。冒頭のディスカバリー・チャンネルのような映像も、主人公2人の職業も、昼間起きた出来事さえも全てが、後に起きる度肝抜くような出来事の伏線として用意周到に張り巡らされ、一つとして取りこぼしがない。一見してロマン・ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』、デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』、ジョージ・クルーニーの『サバービコン 仮面を被った街』あたりを思い浮かべたし、最初は「行き過ぎた監視社会の弊害」のような大枠の展開を予想していたのだが、結論としてはまったく違う見事な方向に舵を切った。それにしても新興住宅地「ヨンダー」のビルボード広告。幸せそうな父親、母親、そして母親に抱きかかえられた一人息子が微笑む1枚の広告の完成度たるや素晴らしく、どうでも良い部分にまで相当力を入れている。あの緑色の壁面の同じ住宅が区画いっぱいに拡がる悪夢のようなイメージは一つか二つだけ本物で、あとはどうせCGによる付け足しだろうが、マイホーム幻想の成れの果てのビジュアル・イメージには、すっかり肝を冷やした。

 小型のフォルクスワーゲンに乗り込み、レゲエを口ずさむ2人は大して裕福そうにも見えないが、平凡だが終の棲家を探している。マイホームに「理想の暮らし」を夢見た若いカップルの挫折をブラック・ユーモア溢れる風刺劇で見せた監督の手腕は見事という他ない。ただこういう永遠に脱出できないラビリンスにも見える永住の地の設定は、どこかにシステム・エラーがあるはずで、それを見つけてしまったところで途端に興味を失うものと大方決まっている。前述のように「行き過ぎた監視社会の弊害」の方面に舵を切れば、ジョン・カーペンターやスティーブン・キングの世界の再現となるのだろうが、監督は『盗まれた街』方面を選択し、強引に力技で押し切った。私が完璧な出来だと思ったのは子供の登場までで、そこから先は着地点の判断に苦慮する姿がありありと感じられるものの、女性が見た悪夢の強烈なビジュアル・イメージが目に焼き付いて離れない。ワイドテレビから受容した気味の悪いイメージや別次元への侵犯など、監督が苦心したビジュアル・ワークは目を見張るものがある。「行き過ぎた監視社会の弊害」方面に行かなかったとしても結局、ジョン・カーペンターの『光る眼』じゃないかという突っ込みはあるし、あらためてカーペンターの偉大さを再認識せざるを得ない作品だが、近年の低予算映画の中では断トツにセンス溢れる1本であり、ジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』や『アス』と並べて楽しみたい作品だった。
netfilms

netfilms