yuusai

ビバリウムのyuusaiのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
4.6
Vincenzo Natali監督をご存じだろうか?。映画界にソリッドシチュエーションスリラーを生み出した奇才。短編「ELEVATED」を見て驚愕したカナダの製作会社が「マジで凄い!50万カナダ$で好きに作ってくれ」と完成したのが「Cube」。私の生涯1位作品「SAW」のルーツ。本作はカンヌ映画祭でプレミア上映された、ナタリズムの継承者。TOHOシネマズ二条で鑑賞。

Natali監督は元々建築デザイナーの人で商業監督の様に、多くの人の意見を聞いて作品を創る事に向いて無い。近年は「ハンニバル」「ウエストワールド」「ロスト・イン・スペース」TV仕事に没落してるが、業界で彼を信奉する人は多く、卓越したセンスの良さ、削ぎ落としたプロットは、後のスリラー映画に大きく寄与した。彼のスタイルは、今で言うミニマリスト。劇場で「この監督、絶対ナタリストだ」と後継者登場に相好を崩した。

Lorcan Finnegan監督、前々作の短編スリラー「Foxes」が本作の元ネタ。この作品はタイトル通り「狐」ですが、本作では「カッコウ」ナタリズム継承者らしく、冒頭でオチを解説する大胆不敵。私は動物に疎いので「托卵」にピンと来なかったが、卵を落とし、雛を落とし、餌を貰う行為を見せられると、登場人物の行く末も同じ末路と分る。スリラーとして結末では無く、其処に至るプロセスを楽しんで、と言う監督のメッセージ。予定調和を危惧したが、細かいプロットが粒揃い。ハリウッド・スターが脚本に惚れ込んだのも、通りで有る。

監督はアイルランドの会社に脚本を預け、映画化の機会を伺うがロンドン出身、レビュー済「ブラック・クリスマス」Imogen Pootsのエージェントが予稿を見せると、プロットを気に入り出演を快諾。彼女の参加でデンマークのプロダクションも参戦、其処からJesse Eisenbergに白羽の矢が当たり、彼の参加でベルギーの製作会社も加わる。監督は初めからアメリカ資本に依るコントロールを嫌い、映画化のヴィジョンに絶対の自信は有ったが、予想外のハリウッド・スターに戸惑いを隠さない。すると、2人は「私達がお金も出すから安心して」と、製作総指揮を兼務。製作費400万$、北米興収45万$。大丈夫、まだ配信が有る"笑"。

モチーフにしたのが、祖国アイルランドの住宅事情。登場するモデルハウスは、イギリスを始め最近ではアメリカでも流行してるが、監督は「得も言われぬ違和感」を感じるらしい。家が均一と言う事は、偏見や差別を無くす意味でも有効で建築当時は「理想郷」とまで言われた。しかし、武漢ウイルスでイギリス経済が落ち込む中で、ローンが払えず家を手放す人も多い。監督は理想の住まいが、自らを苦しめる皮肉を悪夢に変えて描いた。同じ英国系Pootsも共感した、あのエメラルド色が不気味と言う2人に、ニューヨークっ子のEisenbergは驚いたらしい。

夫は「自分達を閉じ込めてる犯人が庭の地下に居る」と妄信する。食事と寝る時以外は庭師の設定を活かして掘り続けるが、家の借金の為に仕事へ行く、帰って食事して寝る。と言う繰り返しに明け暮れる現実を、悪夢と置き換える。客観的に見れば「何の為に生きてるんだろう」と思うが、それは貴方の現実です。家の借金だけでなく、子供にも金は掛かる。遊びに行く金も無く、食事も切り詰める。脱出不可能な住宅街「Yonder」で配られる食事、美味しそうに見えないのは、私だけだろうか?。

妻の最大の悩みは「子育て」此処でも現実とシンクロする。子供相手の仕事と言う設定がラストに繋がるが、対人スキルが夫より数段上でも、それを嘲笑う様に大人が理解出来ない存在へ変貌。此のセグメントで重要なのは、子供がTVを見るシーンで描かれる内容。私は此処で監督が描く「結末」が見えたので、注視して欲しい。夫と子供との確執が、親に頼れない現代の母親の心情を見事にスリラーとして刷り込んでる。

【ネタバレ】此処で念の為、一旦予防線を張ります。鑑賞後にご覧下さい【見ちゃダメ】

ハリウッドならピンチを脱出して終わり、だろうが本作は私の好きなイギリス映画、そう簡単には終わらない。自分の事として考え欲しいが、仮に私が30代前半として好きな人と結婚して京都にマンションを買って子供が出来て大学まで行かせたとして、あと何年生きられるだろうか?。ねっ、ゾッとしたでしょ"笑"。この作品が最も恐ろしいのは、全ての人が分っていても敢えて目を逸らす逃げ場のない現実を丁寧にアンサーする。夫婦が「解放」される時、それは「死」とイコール。

秀逸なのは、それを否定するスタンスではない、と言う点に有る。監督が訴えたいのは、誰かの作ったイメージとかルールに、私達は勝手に縛られてる、ソレに気付いて欲しいと言うメッセージ。私は日本をアメリカから見る時期が有ったが、其処で感じたのは「個を抑圧する家庭観」。私は生粋の京都人だが、意外だろうが京都の人間は古い慣習が大嫌いで、ブレイクスルーな感性が受け継がれてる。伝統をその時代にアレンジして生き残り、1000年を超えて今が有る。一方で「家を継ぐのは立派な男」とか「結婚して子供を産んでこそ女」とか、日本人は家庭観に縛られ過ぎ。しかし独身の言い訳を探して無為に時を浪費する人生の方がもっと空しい。それはイギリス人も同じらしく、何も考えずに人生を突き進むのはクエスチョンと、スターが警鐘を鳴らす。ギャランティー度外視で監督を支持した2人、私はその気概を大いに称えたい。

托卵で始まるラビリンス・スリラーの傑作。VIVARIUMは人生の縮図かもしれない。


【ネタバレ】此処から本気でラストを考察します。絶対に鑑賞後に見てね【見ちゃダメ】

原題「VIVARIUM」意味は「自然の生息を模した動物飼育所」上野動物園にも両生爬虫類館(ビバリウム)が有る。魚だと「アクアリウム」は誰でも知ってる。Yonderが飼育所とすれば、誰が人間を飼ってるのか?、答えは蛙型のエイリアン。私は動物に疎いので後で調べたら蛙は土中で休眠するらしい。住宅街は「異星人の子供を人間が育てる為に作り出された空間」実際は仮想空間で、天気が変わらない=自然が無い、飛行機が飛ばない=地球でも無い。上で述べた様に子供が細胞分裂に興味を示すのは、彼らなりの「Eテレ」。子供は地球の言葉で喋れない、だから教育係として連れて来られた。子供がマーティンに成れば、夫婦は殺され次の夫婦が来るだけ。だがマーティンの寿命は地球では短く、自分が死ぬ前に次を作る必要が有る。秀逸なのは、最初に考察した夫婦だけでなく、異星人のマーティンも利用されて死んで逝く。謎の組織に報告するだけの「人生」彼もまた犠牲者。「Cube」ナタリズム継承者らしい結末。

スリラーのオチが宇宙人だと怒る人が居るが、問題は伏線がきちんと明示されてるか否か。初代?マーティンの俳優も、人間との境目を絶妙に演じてた。凝り固まった既成概念は、ロジックのアップデートが昭和で停止してる証拠。私の考察が気に入らない方は、迷わずブロックして頂いて結構。キレてないです"笑"。