Shingo

宇宙でいちばんあかるい屋根のShingoのレビュー・感想・評価

2.6
「♪つばめよ 高い空から 教えてよ 地上の星を」

本作のタイトルから連想するのは、中島みゆきの「地上の星」。主人公の名前が「つばめ」であるのは、偶然ではないだろう。
学校内の授業シーンでも、夜空に見える星は、明るく輝く恒星だけであると教えている。つまり、「宇宙でいちばんあかるい屋根」とは、「地上の星」を言い換えたフレーズだと思われる。

だが、「地上の星」では個人を「地上に輝く星」とするのに対し、本作においては「ひとつ屋根の下に暮らす家族」を星に見立てている。ラストシーンでは色とりどりの屋根が描かれ、そのひとつひとつが地上の星であるのだろう。

桃井かおり、坂井真紀、清原果耶の三人が抜群の演技力をみせ、その点は申し分ない。(男性陣は、正直おまけ扱いである)
特に、つばめが赤ちゃん用の靴下を渡す場面で、母親(坂井真紀)が感極まって逆に怒ったような顔になるのは、本当にすごい演技力だ。この表情は、役になりきっていなければできないだろう。

つばめと星ばあの年の離れた友達のような関係、亨とつばめの恋愛未満な関係も、絶妙な距離感がいい。大学生の亨からすれば、中学生のつばめは恋愛対象外であり、もしかしたら大学に恋人がいてもおかしくない。
星ばあとクラゲ踊りをくねくね踊る場面は、お別れフラグがびんびんに立っているだけに、おかしくもあり、哀しくもある。
少し離れたところにいる人の方が、素直な気持ちを話せたり、客観的に自分を見つめなおす手助けになる。そこを丁寧に切り取った描写が見事だ。

ただ、若干ひっかかる部分もある。つばめは物心つく前に実母が家を出たことを知っており、再婚した両親に子どもができたことに不安を覚える。その気持ちを継母にぶつけてしまうのだが、なぜ継母に気持ちが向かってしまうのか。母親だけでなく、父親にも捨てられると思うのであれば、その矛先は父親に向かうのが筋だ。
それが14歳の少女の複雑な心境だと言われれば、そうなのかと思うしかないが…。

また、本作において「家族のつながり」とは、血縁よりも「一つ屋根の下に暮らすこと」を重視していると思われるが、一方で、つばめは実母と同じ水墨画に興味を持ち始める。「血は争えない」というか、一瞬、父親が顔を曇らせたのも無理はない。だが、これでは共に暮らすことより、血のつながりの方がやはり濃いのかと思わせてしまう。

一つ屋根の下で暮らす=家族というテーマにも、いささか疑問に感じる。「宇宙でいちばんあかるい屋根」とは、幸福な一家団欒だけを指すのか。つばめの住む郊外のベッドタウンは、平均以上の生活水準を手に入れた幸福な家庭ばかりだ。その家並みを見下ろして「地上の星」とみなすのは、それ以外の貧困家庭は暗い光しか放っていないかのように写る。輝く恒星の光しか、地上に届かないように。

原作者も監督も、そういうつもりはないと思うのだが、両親がいて子供が二人くらいいて、父は会社員、母は専業主婦といった家庭を"理想形"とする意識が、どこかにじみ出ているような感じがしてしまう。
この映画を、あくまでつばめ個人の物語として描くなら別によいのだが、街を俯瞰することでテーマを一般化してしまっている。
「新聞記者」を撮った藤井道人監督だから、そこに対するアンチテーゼも内包して描いているのかも知れないが…。余計なことまで考えすぎだろうか。
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