足拭き猫

春を告げる町の足拭き猫のレビュー・感想・評価

春を告げる町(2019年製作の映画)
3.7
福島県の南に位置する広野町。「春を告げる町」はそもそも町のキャッチフレーズのようだ。原発で避難を余儀なくされるも一年で帰還開始とは知らなかった。

除染作業をする面々は町の人口の半分を占めるそうだ。アヒル農法(合鴨)のコメ農家。小屋の網にひっかかる羽毛、働いた末路はああなるのか。

町に戻った消防士とその家族、食べ物は毎日放射線検査したものを利用している。自分だったら小さい子供がいたら戻らない選択をするけど、恐怖よりも郷土への愛着の方が強いのだろうなぁ、人それぞれだ。

ふたば未来高校もこの町にある。誰しもが当たり前に使う「復興」という言葉に疑問を呈する。劇を通して何をどう伝えるか課題を突き付ける先生、懸命に考える生徒。演じきったけど答えが出るのはこの先ゆっくりなのだろうな。

仮設に住んでいたおばあちゃん、おじいちゃん。取材する側がメロンをどうぞどうぞ、とすすめられてしまうのは、堀禎一の天竜区奥領家大沢シリーズを思い出して微笑ましい。集まるとワイワイガヤガヤ、おしゃべりも止まらない。そんなこともあったねえという心境なのか、避難所での生活のビデオを懐かしく見返す嬉しそうな表情。この作品の中のお年寄りはとてもたくましくて、復興とは(前とは同じでなくても)各人が「日常を送ることができていると思えること」というとてもシンプルなことを教わる。

最後の映像で、昔は木がなくて海まで見渡せたんだよという言葉に思いを馳せた。