タカ

アンダードッグ 前編のタカのレビュー・感想・評価

アンダードッグ 前編(2020年製作の映画)
4.2
輝けるのは世界チャンピオンだけ

日本の格闘技聖地と呼ばれる後楽園ホール
すり鉢状とも呼べるであろう座席設計の中で
特徴的なオレンジシートが映える
試合開始のゴングが鳴らされ
煌々と照らされるリング
汗、血を飛び散らせながら
ぶつかり合う2つの執念
削り削られ最後に残るもの
それは…

3人の負け犬の物語
瞬、晃、龍太
全員何かしらに負けて鬱屈した日々を送る
前編において描かれるのは
晃のプロローグ、瞬のクライマックス、龍太の紹介

日本タイトルに挑戦したあの日
そこから時計の針は止まり
本気を出して打ち込めない
ジムの会長からは見放され
妻と子供も自分のところを離れ
ジムスポンサーのサウナ屋でバイト
知り合いのデリヘルで送迎運転
生計を立てるために削られる時間の中で
練習するのは決まって真夜中一人
プロテスト前の若造にも憎まれ口を叩かれ
目標を見失った男が日の目を見るわけもなく
かつての日本ランク1位は
かませ犬ボクサーに成り下がる

二世タレントとして入った芸能界
実力主義の世界で
ネタが認められることはなく
近寄る人間は自分じゃなく金目当ての連中ばかり
面白くない、つまらない
馬鹿にされてなめられてそれでもお調子ものを演じて
疲れ切った状態に舞い込んだ仕事
プロボクサーになって試合をする企画
一発逆転を狙って男は勝利をめざす

何かがあるかもしれない
何かが見えるかもしれない
その何かに期待して
あきらめることができない
自分にもう価値がない
頭のどこかでは分かってるのに
それでも輝きを求める
ボクシング界の負け犬と芸能界の負け犬
本当の負け犬はどちらなのか

どうしようもない底の底
二度とボクシングやるなよ
すぐに引退しろよ
十分やった、ボクシングはもういいだろ
プライドも何もかも捨てて
残りカスのようにリングに上がった報い
リング上に残るのはいつだって勝者と敗者
敗者に待ち受けるものは
孤独な絶望


ここから感想(ほぼほぼメモ)

ひたすらに描く日常のやるせなさがリアルで辛い
進むべき道を見失う、人から認められないなんてざらにある話
そんな溜め込みっぱなしのストーリーが
最後の試合シーンでカタルシスを生む気がする
てっきり前編では試合シーンは登場しないのかなと思っていたけど、たっぷり見せるのでお得感
瞬の本気のまなざしがすごくて勝地涼さんの演技が鬼気迫る
前編単独でも完結する話だけど瞬目線と晃目線でまったく感じ方が変わる
それがまさしく勝者と敗者のちがい
試合シーンの圧倒的な熱量にどうしてもぐっとくる
負け犬で共通した2人のシナリオの中で観客の共感を生み、最後には『完』と『つづく』
燃焼と不完全燃焼のバランス感の良さ
後編で燃え尽きたい気持ちにさせる
劇場で観て大満足のすごい映画
興味ある方はぜひぜひ〜
タカ

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