April01

グッバイ、レーニン!のApril01のレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
4.1
東西どちらが良いという主張はなく、当時を生きた一家族の視点でめまぐるしい変化に戸惑い翻弄される人々を描きながら、失われた価値観や世界に対するノスタルジーが感じられ切ない空気が作品全体を覆う。

主人公を助ける西ドイツ出身の友人がいい味を出していて、映像作家志望として楽しんで制作する偽の東ドイツ映像とニュースキャスターぶりが最高に面白く、シリアスになりすぎずにコメディ度を上げる良いバランサーとなっている。

ピクルスとかコーヒーとか、日常生活で切実に変化を実感するのはやはり食べ物なんだな思い、東ドイツのパッケージに中身を移し替える努力が涙ぐましくも微笑ましくもあり、メーカーによって味も違うから慣れるのに大変そうだし、馴染んだ食品って味もさることながら、視覚で覚えていることも多いことに改めて気づく。
コカ・コーラの巨大看板を見て、そう言えばペプシとのマーケティング争いの歴史ってどんなだったけ?と調べてみる気にもなり、色々と当時を思い起こし知的好奇心に訴えかけてくる。

主人公をダニエル・ブリュールが好演。母親想いの優しさと、両親の複雑な事情を受け入れつつも実は嘘をつかれていたと知った時の感情表現がとても自然だし、東ドイツを再現することに政治的主張や押しつけがましさがなく、さらに母の為にしていることが東ドイツの人々のみならず観ている人すべてに失われていくものへの郷愁を体験させることに大成功している。
同時代にその場所で生きた人達の体験を、イデオロギーまみれでなく家族愛と市井の人の視線で包み込むような素敵な作品。
April01

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