みかんぼうや

グッバイ、レーニン!のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
3.6
【かつて2つの国だったドイツ。東西統一という資本主義と社会主義のイデオロギーの対立と統一後のカルチャーショックの現場を皮肉を交えポップに描く社会派作品】

個人的第第二次映画ブーム突入中の社会人2年目に公開されて、その時に映画館に観に行こうと何度も思いながら結局観てこなかった作品。フィルマの皆さんのレビューで本作を思い出し、このタイミングでのようやくの視聴。

ベルリンの壁が崩壊した時、私は小学校4年生で、壁が崩壊した事実はもちろんニュースで知っていたし有名な壁を壊し人々が行き来するシーンも知っていたけど、そこに存在する資本主義と社会主義の対立、人々のイデオロギーのぶつかり合い、そして統一の先にある一人ひとりが感じるカルチャーショックまではさすがに全く理解できていなかった。

ドイツという欧州屈指の強国が、第二次大戦後にソ連の占領下のもとで分断され、同じ民族にして相手を敵国と見做すほどの社会的対立を生んでいた事実。当時小学生として東西統一を目の当たりにした私ですら、その背景や現場で起きていたことへの理解はほぼ無いのに、私よりさらに若い世代の人々は、ドイツが2つの国であったことすら想像がつかないのではなかろうか?

本作は、その当時の西ドイツと東ドイツの人々の思想的な感覚や文化、彼らを取り巻く変化を学ぶだけで本作を観る価値は大アリだ。しかも、それを政治思想的に、学術的に専門家が語るのではない。この東西統一前後の8か月の間に心臓発作をきっかけに意識を失い、統一の事実を全く知らなかった東ドイツ出身社会主義寄りの母親にその事実を嘘で隠し続ける、というある種の社会派ファンタジーとして仕上がっているから、この本来複雑で難しいテーマとそこで起きていた現場での摩擦が、なんともポップで分かりやすく、ちょっと皮肉交じりのユーモアとともに描かれている。結果として、当時の状況をもっと知りたい、とグイグイ引き込まれる。

もちろん当時の複雑な背景を本作で全て理解することは不可能だが、東西ドイツの歴史と統一時のことについて、興味を持つきっかけとしては十分過ぎる作品だろう。

これでもやや抑えめな点数にした理由は、母親への精神的ショックを与えないように、と8か月間も東西統一の事実を隠し続ける嘘のつき方は、やはり非現実的なある種のファンタジーであり、さらに“母親のため”を思って延々と嘘をつき続けようとする主人公のスタンスは、それが「正義のための嘘」と分かっていても、あまり共感できなかったから。これは先日観た邦画の「鈴木家の嘘」と重なり、周りで示し合わせて嘘で真実を隠し続ける、という選択が私はもともと苦手なのかな。

このあたりで主人公に共感できず、実は作品を観ながら終始モヤモヤしていた感覚もあったが、ラスト前に偽テレビ放送を家族で見ながら、放送ではなくずっと息子の顔を見続けた後、「すばらしいわ」とつぶやく母親の姿に、息子の母親への愛、そしてそれを受け止める母親の息子への愛を感じて、そのモヤモヤが一気に吹き飛んだ気がした。

ドイツ国内で記録的興行成績を叩きだした作品で、当時の時代を生きているドイツ人だったら、さらに色んな思いが溢れる作品だろうな、と思ったが、それを直接体感していないような私でも十分に楽しめる分かりやすい作品。ドイツの東西統一あたりに関心をお持ちの方はぜひ!
みかんぼうや

みかんぼうや