あばばば

グッバイ、レーニン!のあばばばのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
4.4
わたしはベルリンの東ドイツ博物館で一日潰した女です!モチーフとしての東ドイツや旧共産圏の陰鬱さは大好きなのでダンボール製と揶揄された大衆車のトラバントが出てくるだけで大変楽しめました。オスタルギー値がうなぎのぼりよ。
主人公のお母さんと接している間、高齢者が故郷である東ドイツを懐かしみそして雇用の面では西に不満を持つという姿勢が、偶然にも母の信じ続ける世界にぴったりと一致してしまうという図の…なんてよくできた皮肉よ!統一で生まれた光と陰を、なにも知らない母を軸にとても上手に操っていて思わず唸ってしまいました。アレックスが重ねる嘘は全部真逆で21世紀を生きるわたしたちからしたらありえないことばかりだったけれど、なにかボタンのかけ違いがあればもしかしたら社会主義が勝ってたんじゃないかという、妙なリアリティのあるIFルートを見せられて胸が苦しくなった。いや、社会主義に勝ち目はなくとも、少なくとも東ドイツの市民が望んでいた勝利の形だったんだと思う。実現しなかった東ドイツの夢。それを見せつけられたのは身を切るような痛みがあり、切なくて、やるせなかった。その中でも「西ドイツの市民がベルリンの壁を乗り越えて東側にやってきた」という形で編集された映像が一番怖かった。適切な感情が思いつかないので怖いで処理してしまってごめんなさい。だって、本当は東ドイツの市民が西側に流れ込んで行ったのに、実際の映像を使っているはずなのに、こんなにも簡単に事実が逆になってしまうなんて、もう本当に神の気まぐれの作為で運命が決まってしまったかのような衝撃があって呆然としてしまう。あべこべになってしまった嘘と本当、資本主義と社会主義の戦い、それからありえた未来と厳然たる今がこんな形で、映像であっけなく裏返されてしまうというところに妙な虚脱感を覚える。たぶんそれはどちらが勝っても、どちらが正義でも、収まる図式が同じだからなんだと思う。うまく言えないけれど、政策は違えども社会主義も資本主義もほとんど変わりないものなんだ。本質的には同じ。どっちかは滅んでどっちかは生き残っただろうし、どっちにも欠点があり、そして人はどちらかに流れ出していた。その図は変わらない。そしてそれは「宇宙から見れば人間はちっぽけだ」という物語のメッセージに大きく関わってくるものだと思うし、宇宙から見たベルリンに国境線も壁もないということなんだろうなと思う。うまくまとまらないからもう一度観たいな。久しぶりにいいなあと思える映画だった。
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