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グッバイ、レーニン!のkomoのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
4.5
東ドイツで社会主義に傾倒していた母が心臓発作で倒れた。昏睡状態に陥ってから8ヶ月後に意識を取り戻すものの、彼女が眠っている間に世界は一変。東西ドイツの壁が壊され、社会主義は解体し、街には西ドイツの考え方が流れ込んできたのだ。
息子のアレックス(ダニエル・ブリュール)は母の心臓に衝撃を与えないよう、いまだ東ドイツが存続し、社会主義が人々の心に根付いている世界を演出する。


これはドイツにしか創れない映画。
政治色が濃いかと思いきや、家族ドラマとしての色合いの方が濃かったです。しかし家族という小さな単位の出来事を描きながら、東西の壁崩壊により世の中がどう変わってゆくのかを進行形で身近に感じることができました。

主人公アレックスの母・クリスティアーネ(カトリーン・ザース)は、かつて夫が家族を捨てて西ドイツに行ってしまったというトラウマを抱え、その反動で東ドイツの社会主義を熱狂的に支持するようになりました。
しかしアレックスは反社会主義のデモに参加していました。そんな息子の姿を見たクリスティアーネはショックのあまり卒倒。8ヶ月間、昏睡状態に陥ります。
目覚めた時には東西ドイツが統一されており、アレックスたちの家も、街並みも、西ドイツの自由な文化に感化され激変していました。
そしてアレックス自身も、音楽の趣味が変わったり薬物に手を出したりと、クリスティアーネにはとても見せられないような趣味趣向に変わっています。

しかしアレックスは母のため、社会主義時代に時を戻す工夫をします。
部屋の内装を母が倒れる前と同じように戻し、今はもう販売していない食品を手作りし、母の部屋には絶対にテレビを置かない、など。
その代わり、友人と共謀して制作した偽物のニュースのビデオを母に見せたり。

アレックスの頭の回転の良さ、母が傷つかないことを精一杯考える優しさにはド肝を抜かれっぱなしで、次の状況はどう乗り越えるんだろう?と始終ハラハラ。

しかしこれが正しい行為かと言われるとやはり難しいところ。自分がこのお母さんの立場だったら真実を知りたいし、大切な家族と共に時代に乗りたいと思います。
ですがクリスティアーネはきっとアレックスの優しい嘘に気づいていたからこそ、彼女しか存在しない世界の誇らしい住人で在ることができたのでしょう。

政治と時代背景と家族愛が巧く交錯する映画としてのつくりは唯一無二であり、この先の時代に観ても、この作品でしか味わえない新鮮味があるのではないかと思います。そしてタイトルが本当にハイセンスです

ラストシーンがとても良かったし、音楽が頭から離れません。
変わりきった世界を見下ろす。
そのことでクリスティアーネは最高に救われ、誰よりも無垢な心になれたはず。
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