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逃げた女のmarikabraunのレビュー・感想・評価

逃げた女(2019年製作の映画)
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同じ内容を別々の相手に話すのは楽しい。それぞれ返ってくる反応が違うのは勿論、水面をなぞるような会話しか出来ない時もあれば、互いに深く潜って自分でも見えていなかったものが引き出されるような感覚になる時もあって、その差異が面白い。ここでは5年間の結婚生活で夫と一度も離れたことがなかった女性が昔からの友人を訪ね歩く。愛する人とは常に一緒にいるべき、という夫の言葉を呪文のように繰り返す彼女は心ここに在らずといった表情で、本当に順調?と訊ねたくなる。まるでその考えが正しいものであるか他者のフィルターを通して精査しているかのように見えた。毎日ふたりきりで対峙する時間が長く続くと、自然と考えも話し方も似てきて、自分と相手の境界線が溶けたような甘美な安心感があるとともに、相手によっては同一化こそが愛だと信じ込まされる危険性がある。

逃げる、のも悪くない。一時的に逃げられる時間と場所は、自分と社会と向き合う為に必要なものだと思う。金持ちの家のシアタールーム、もといアップリンクのような映画館は韓国にもあるのだな。飲食禁止の劇場内でむしゃっとパンを頬張るキムミニが可愛かった。
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