キム・ミニの話しはすべてが嘘で、夫について聞かれてもあの答えしか持っていないから同じ話しになる。絶望的に寂しく、その孤独から目を背け、かつての先輩を訪ねるが誰も私の虚無には気がついてくれない。それぞれにはそれぞれの人生があって、私は私で他人は他人。過去の男に会いに行ったとしても、すでに時間は進んでいて、ここにも居場所はない。なにもなくなり、誰もいなくなり、その果てに私は空っぽな映画館の荒廃した海の向こうのスクリーンに吸い込まれていく。リアルから逃げてフィクションに、身体から心が離れて彼女はただ狂っていく。ホン・サンス版『鬼火』。