よしまる

ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダンのよしまるのレビュー・感想・評価

4.1
  ボクの世代でピエールカルダンと言えば、レトロでポップなファッションと、引き出物やギフトで見かけるハンカチやネクタイ、コップやスリッパといった節操のないブランドイメージ。

 なので、サンローランやギラロッシュとともにクリスチャンディオールの門下生として頭角を現し、20代でブランドを立ち上げ、さらに40歳手前にはオートクチュールを量産化したプレタポルテを発表という革命を起こしたファッション界の異端児とは俄かに信じ難く、その豪胆で先鋭的なモード魂と、70年代に自らの名を冠した食器や日用品、さらには自動車や電化製品にいたるまであらゆるライセンス販売に手を広げた商売好きの成金のイメージとはあまりにかけ離れていた。

 実際のところ、90年代にはカルダン帝国の野望ともいうべき自叙伝を発売した折には自らその名を下げたと言われており、エルメスやシャネルなど独立系ブランドが、大手資本に参入することもなくブランド名を安売りしてOEM製品に手を広げることをしてこなかったのとは対照的に、金儲け主義のダサいブランドというイメージがついてしまったことも否めない。

 さて、そんなボクなりのしょぼい予備知識だけを頼りに彼の伝記映画を鑑賞し、かなり異なる印象を持つに至った。
 もちろん、存命中の彼の映画なのだから悪いようには描かれるわけがないのだけれど、それでもあれだけの著名人が絶大なる信頼のもとに彼を慕い、また本人の口からファッションへの想い、自分のブランドへの誇りと信念を語るのを観てしまうと、とてもとても馬鹿になんてすることのできない、彼もまた偉大なファッションアイコンの1人なのだと痛感させられた。

 立体裁断で生み出されるシルエット、ディテールにいたるまで突き詰められたコレクションは、ファッションを越えてアートの域に達しており、だからこそカルダンのデザインをあらゆる商材において提供することが人々の暮らしの豊かさや幸せにつながると、本気で思ってきたのだろう。

 現在のピエールカルダンは、ライセンスを減らして本来のメゾンに立ち返る戦略をとっているらしい。98歳にして現役で指揮を取る彼の存命のうちに、大きくなりすぎた帝国が時代に合わせシュリンクすることは素晴らしいことと思う。

 映画については、60s70sのファッション好きなら観ているだけで恍惚の時を過ごせるという時点で真っ当な評価は難しい。それでも、もっともっと観ていたい、ひとつでも多くの作品を見せて欲しいと願うのは、まさしく彼のデザインが魅力的であるからにほかならない。インタビューだけをオミットしたPVヴァージョンでもあれば、一日中眺めていたいくらいだw