まっつ

メイキング・オブ・モータウンのまっつのレビュー・感想・評価

2.8
ドキュメンタリーは嘘をつく。カメラに映る人物は、より良く映るように見せるし、より良く真実を伝えもする。事実、本作は72年までの言わば「モータウン全盛期」を切り取った作品で、ジャクソン5がレーベルを離れて以降の話には触れられていない(もちろん、彼らがレーベルを離れる際、ベリー・ゴーディ Jr.が強引に引き留めようとした話も描かれない)。往々にして欺瞞を多分に含む映像体系がドキュメンタリーなのだ、というのは大前提。

しかし、だ。それを差し引いても、ベリー・ゴーティ Jr.がレーベルを始める前から「白人も黒人も関係ない」という考えを持っていたのは先進的の一言。ここから分かる通り、モータウンレーベルの中においてはどの人物も限りなくフラットに評価するし評価される。品質管理会議の音声からも和やかかつ明確にジャッジを下す様子は伝わる。何より、創設者の作った曲も会議でどんどん却下されていくのだ。
組織内のフラットさは社員の構成にも表れており、1960年代には異例とも言えるほど性別・人種に捉われない雇用を積極的に行っていた。女性も黒人もユダヤ人もないのだ、優秀かそうでないかだけなのだという姿勢。徹底した能力主義を掲げていたからこそ、ツアーで訪れた南部において目の当たりにした差別に心の底から恐怖するし、その分断に音楽の力で立ち向かう。

「アートに色は関係ない。音楽も無色だ」本作が撮影されたのは2019年8月だが、BLMが高まりを見せる今、彼の言葉はより重みを持って迫ってくる。


ここからは余談です。
ベリー・ゴーディ Jr.は撮影当時90歳。本当かよ、と思いました。動きも矍鑠としているし、記憶力も10歳以上歳下のスモーキー・ロビンソンに勝っている。いろいろ書きましたが、この作品は2人のおっさんが仲良く喋るのをホッとした気持ちで見守る作品です。すげぇいいやり取りしてるんですよね。先に挙げた、2人の記憶が食い違うシーンで「何ドル賭ける?」とか言い合ってるの最高でした。お茶目ジジイめ。
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