ねむ

なぜ君は総理大臣になれないのかのねむのレビュー・感想・評価

4.4
35)このコロナの状況で観に行く作品なのかな、これは不要不急??と悩みながらもどうしても気になってコソコソと映画館を訪れた。
きっと少ないだろうと思っていた座席は予想以上に埋まっていた。

1番印象深いエピソードのことを何度もグルグルと考えている。
勝ち負けが決まる時、それは100:0ではなく実際は51:49だったりする。勝った51の方は49のことをどこまで背負えるか、みたいなことを言ってた。
勝ちさえすれば自分の意見が通ったり、主張しやすくなって、その為に勝とうとしてるはずなのにこの人はいつも誰かのことも考えてる。
(食事の時、あなたの分はありますか、食べましたか?などと言うところがどこか根本は繋がっているように見えた。ただの気遣い?)

勝ち負けという表現も20年前と変わらない選挙活動の仕方も、働いたことのない仕事を初めて間近で見るような気持ちになる。

『政治家には向いてない』という言葉もとても興味深い。
そもそも『向いている人』ってどんな人?
向いている人達の集団が、私の身近な世の中を動かしてるようには見えない。
政治の世界だけじゃなく、今『向いてる』と定義されてる人だけでその世界が出来上がらない方がいいと思う。

メディアも面白い。
新聞に載った要約されまくった短文だけがその人の全てじゃないのに、私たちは簡単に何かを判断した気になってやしないか。
(立候補者が新聞社の社長の弟とか知った上で投票したことなんかなかった。

政治家はみんなお金持ちで私みたいな庶民のことなど何も知らないだろうという現実の真横で
私も彼らが一人一人どんな人間で何を大切にしているのか果たしてちゃんと根っこの方を知ろうとしていただろうかと思い知らされた。

これまでの私たちは、お互いのことに興味を持たな過ぎた。
自分のことばかりの者同士だ。

2003年32歳の彼が立ち上がった時、私は幾つで、何をしてたかな。
それぞれの年代で苦悩する言葉を聞きながら自分の人生も追いかける。
自分の住む街で生きる小さな1年や1ヶ月のことしか考えられなかったように思う。
改めて感慨深い。自分以外の人間の過去がどんどん今の私に近づいていく。

50歳になるまでに政治は変わるし、変えられるという希望があったんだろう。
家族は彼が大事なんだとわかる。傷つき悩みながら挫折する姿をみて、他人の私まで胸が痛む。
自分がこれまでに失敗してきた数々の選択もどこか重ねて見てしまって、だから涙が出るのかな??
何故か自分が泣いてはいけない気がして一生懸命堪えてしまった。

自分が生きている間に何を変えていけるんだろう。
少なくとも騒がしい場所の小さな声を、自分は聞こえなかったことにしたくないんだな。

観て良かった。
これから彼は総理大臣になれるのか。
私は何者になるのか、先ずは心を動かそうと思いながらひどい余韻の中真っ直ぐ帰ります。
ねむ

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