ごろちん

日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人のごろちんのレビュー・感想・評価

4.3
とても分かり易くて観易いドキュメンタリー映画だった。

それもそのはずで、監督はフィリピン残留日本人と中国残留孤児の現状を多くの人たちに知って欲しいために本作の制作を手掛けたんだとか。得手してそういうドキュメンタリーは公平なスタンスを欠き、恣意的に情へ訴えようとするけれど、この作品は冷静な視点で問題を捉えようとしていた。

今後のことについて建設的に国と話し合いたいフィリピン在留日本人の方々と支援団体。笑顔のお婆さんたちは日本の誠実な対応を信じている。同じ残留邦人でも中国残留孤児について言えば、長く険しい道のりだったものの、社会的な保障は漸く整備された。対してフィリピン残留日本人については、戦争が始まる前から移住していた、片親だけが日本人という理由から国は未だに本腰を入れて救済しようとしない。兵隊に徴収され父親を失い、今も山奥でひっそりと暮らす2世たちに対し国籍すら与えようとしない不思議な国ニッポン。

この何とも言えない気持ちは『ニッポン国vs泉南石綿村』のアスベスト訴訟を想起させた。この時の訴訟でも原告団の怒りと失望を買っていた。つい最近も黒い雨訴訟で国が控訴して原告団を落胆させたばかり。自国のことをあまり悪くは言いたくないけど、劇中でも述べられていたように、高齢化した原告団を相手に問題の解決ではなく解消に持ち込もうという姑息な魂胆が見え透く。我が国はとことん「責任」という二文字が嫌いらしい。

それに比べて残留日本人問題の解決に向けて真摯に取り組む河合弁護士やNPO団体の使命感と人情には本当に頭が下がる思い。中国残留孤児の方々が日本や中国の災害時に多額の寄付金を贈ったというエピソードには純粋に心を打たれた。

「日本人の忘れもの」という題名について、観る前は他国に置き去りにされた棄民に対する国の怠慢な政策を揶揄しているのかと思っていた。が、よくよく考えれば「日本人」には自分も含まれている訳であって、忘れ去っているのは国だけではないということに今更ながらに気付く。「忘れもの」は今も落とし主を待ち続けている。
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