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エルのhorahukiのレビュー・感想・評価

エル(1952年製作の映画)
4.7
40歳の童貞男!

足を見てビビっと一目惚れした女をストーカーして、更には略奪婚をかますアクティブな足フェチ童貞中年男。結婚後は軟禁&DVなクソ夫にクラスチェンジ。「童貞なんかと結婚するんじゃなかった…」と途方に暮れる奥様が可哀想な結婚怖いよ胸糞ホラー。40歳かどうかは知らんけど、見た目的にだいたいそれくらいの年齢だった😂

ずっと見たかったんだけど、DVDがプレミア価格で諦めてたやつ。いつの間にかBlu-ray発売してたんで買っちゃった!期待どおりめちゃくちゃ面白くて、ずっとニヤニヤしながら見てた。いつものブニュエルな足フェチもキモさ盛り盛りで採り入れられてたし👍

童貞主人公は敬虔なキリスト教徒。そして父親(祖父?)からの「継承」について争っているという象徴的な設定から、父権的な価値観が彼の中に根付いていることがわかる。先祖代々からの土地の所有権の帰属について係争中という、その旧来的な「父権」を継承できるかどうかの危機に彼は瀕しており、それはまた女を強権的に拘束し、隷属させることができるかという別アプローチによる危機も用意されている。

中年になるまで童貞だったということ、そしてアレを「封印」しようとすることからも、女そのものに対する恐怖が彼の中にあるのがわかる。男性優位な父権的な教育をされてきたのであろう背景事情は十分に推測できるのだけど、本当に自分は(自分にとっての)神である父親たちのように振る舞うことができるのか…といった自身に対する能力的不信が上に書いた2つのアプローチによる「父権の継承危機」として現れている。

その自分に対する自信のなさは至るところに見られ、中でも奥様に対しての異常なほどの嫉妬が最も端的な要素だと思う。奥様に話しかけたり親しく振る舞う男たちを全て敵として認識し、平気で暴力を振るい、そいつらの目に止まらぬよう奥様を軟禁する。そもそも自分が友人から奥様を略奪したわけなので、自分と同じことを誰かがやるのでは?っていう恐れなんだけど、そんなん自業自得やし知らんがなって感じですわね🤣というかコイツと居ると奥様が可哀想すきるんでサッサと誰か略奪してあげて!って思っちゃう😂

この「奪われる」ことへの恐れは、先祖の土地継承問題と同じで「父権継承危機」の恐怖に還元されるわけだけど、作中で「過去が消えた」みたいな言葉があるように、過去の自分に怯えているということにもなるのだから狂い具合がエゲツない。そして、彼にとって「父権を失う」ことは自己の存在価値そのものを失うほどの「恥」となるわけで、それを表現した悪夢的空間は流石のブニュエル。「人がゴミのようだ!」みたいな発言も痛すぎて最高だったし…マジで自分を神やと思ってるんやろね。そんで微妙に感じる同性愛要素とか、左右ジグザグの反復とか、ヒゲの変遷の象徴性とか内面のカオスをこれでもかと味わえるからめちゃくちゃ好きだわ。

というか『めまい』の元ネタみたいなシーンがあったけど、ヒッチコックは本作をパクったのかな。あの鐘もオープニングクレジットからの反復だし、さっきの左右ジグザグだったり、覗く行為だったり、反復することが趣旨の上乗せをしていく単発的な場面を越えた連続性を最後まで貫くのも良かった。これはマジで買ってよかった👍
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