このレビューはネタバレを含みます
映画を観て、今まであまり感じたことがない感覚。心が震えたりとかそういう高揚とかはないけど、とてもいい感じに襟を正す感覚になった。非常に誠実な映画だと思った。
震災の記憶を後世に残すやり方は、映像や写真なんかももちろん素晴らしいと思うけど、口頭で伝えていく、このアナログなやり方は、それはそれで、そこにしかないものが伝わる。
わかろうとしない、というより、わかれない。
インタビューパートが大部分を占めてるけど、中には一見すると何てことない話もある。震災の話というバックグラウンドがないと、だから何?と思ってしまうような話。
でもきっと、話し手からしたら、そう話すしかないから、そうなったんだと思う。
安易に自分の感情が入れないからただ事実を伝えるしかなかったり、あるいは、たった短い時間で、断片的にしか話を聞けていなくて、話をつなげるのが難しくて、うまく伝えられなかったり。
そういう空気感を含めて、伝わるものがある。きっとそれは、こうやって口頭伝承みたいな形で何十年何百年と伝えられていったとしても、失われない空気感であることを信じたいと思った。
最近自分は想像力を働かせることの危険性みたいなものを感じていて、若干気をつけてるところがあるんだけど、この映画からは、丁寧に想像を働かせていくことの大事さを教えてもらった。
丁寧に事実を見て、事実を伝えていくだけでも価値はあり、そこからこうだったんじゃないか、と相手を想って想像力を働かせていき、そして同時にその果てしなさについても思いを巡らせていくことの価値。
そして、正確に語ることの難しさ。。自分のことすらも正確に相手に伝えることはできないという劇中の女の子の言葉が印象に残る。
これは震災に限らず、戦争とかもそうだし、もっと他のことにも言える。コロナだってそう。
すべてを後世に残すことはできず、何が残っていくのかはわからないし、どこまで自分がその一端を担えるのかはわからないけど、せめて、後世に残っていく記憶が、後世の人たちの世界を安心、安全、豊かにさせていってくれるものであることを願います。