エリオット

国葬のエリオットのレビュー・感想・評価

国葬(2019年製作の映画)
4.3
なんでもモスクワ郊外のフィルム・アーカイブ所で1953年のスターリンの国葬を収めた映像が合計37時間も残され国営ラジオ放送局の音声記録も28時間分残っていたらしい。
スターリンが亡くなりそのことをソ連の各地で民衆が知るところから、追悼式を経て最後スターリンの亡骸がレーニン廟に入るまでの記録がモノクロとカラーが入り混じったアーカイブ映像を繋いで描かれる。

周恩来など各国の要人が弔問に駆け付け、壮大な葬儀が催される。
もちろんプロパガンダのために撮られていた映像なので批判的な人々は映っていないのかもしれないが、それにしても棺に花を手向ける長蛇の列は皆涙を流し、その表情は悲嘆に暮れ、各地の集会でももの凄い数の民衆のほぼ全員が本気で泣き悲しんでいるように見える…
しかし、作品の最後に数行のテロップで流されるように、スターリンの時代には何十万人単位の人が政治犯として処刑され、100万人単位の餓死者が出ていた事実を知る現代の我々にとって、それらの表情には違和感しかない。
作品のとくに後半など本当に美しく荘厳な映像が流れて心底感動してしまうのだが、セルゲイ・ロズニツァという監督は、スターリンを讃嘆する映像をそのまま作品にすることによって、民衆とはこんなに情報に操作されてコロっと騙されるもんなんだよ、それは現在でも全く変わらないんだよということを強烈な皮肉をもって示している。

物語も説明台詞もない映像がただただ2時間強流れるので見るのにハードルは高いが、一見する価値はあると思う。
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