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国葬のarchのレビュー・感想・評価

国葬(2019年製作の映画)
5.0
1953年3月15日から5日間に渡って行われたヨシフ・スターリンの「国葬」を当時のフッテージをセルゲイ・ロズニツァが編集したドキュメンタリーである。
モノクロの映像とカラーの映像が入り乱れる特殊な映像形式になっているが、モノクロの映像は当時の時代感を伝え、カラーの映像が共産主義の"赤"を鮮烈に記憶させるのに貢献していた。特に赤色は画面内で強い存在感を発揮しており、共産主義の連想だけでなく、スターリンが引き起こした虐殺の「鮮血」を思い起こさせた。

本作の主役は何よりも民衆の顔。何万もの「顔」が画面内を往来し、赤く飾り立てられた台座や棺の中心にあるスターリンの死体を覗き込む顔を無防備にも晒していく。本作にはプロパガンダ的な熱狂は篭っていない。代わりにあるのは見世物のようにされているスターリンの死体とアトラクションの列に並ぶかのように流れていく人々の生な反応。特にカメラを向けられていることを意識してしまう民衆の反応は、現代と変わらない普遍的な不自然さを感じさせるし、彼らも長い列や演説の中でそれなりに退屈したり疲労しているのが表情に現れているのがいい。それらの表情が詳らかにする熱狂そのものの虚構性。熱狂がプロパガンダとして機能するのだからそれを取り除くことで見えてくるのが見世物としての「国葬」なのだ。セルゲイ・ロズニツァが編集して見せたかったものはそれなのだろう。国営放送がスターリンを称える内容ばかりで功罪の「功」ばかり描く一方で、本作の最後のテロップは彼の「罪」の部分を数字で表す。
その強烈な事実と前半の記録映像のツイストが見事なオチになっていて、現代に描き直す価値を感じさせるものになっていた。
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