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悪は存在せずのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

悪は存在せず(2020年製作の映画)
3.5
モハマド・ラスロフ監督(脚本も)によるイランの死刑執行を行う(命ぜられる)人たちにまつわる4つの物語。
秘密裏に撮影を行ない、イランでは上映が禁止されたが、ベルリン国際映画祭で金熊賞(作品賞)受賞。
ラスロフ監督は逮捕されてイラン国外渡航を禁じられため、受賞式には出席できなかった。
原題:ペルシア語: شیطان وجود ندارد‎, Sheytan vojud nadarad
(英) There Is No Evil (2020 ,151分)

第1話 悪は存在せず There is No Evil
車で町まで行き、女性教師である妻のラズィエ(シャガイェグ・シュリアン)や小学生の娘を出迎えて家まで戻ってくる、家族思いで心優しい中年男性ヘシュマット(エーサン・ミルホセイニ)の平凡な日常が描かれる。
最後に、職場に向かった彼は、あるボタンを押す。
観客はそれが何のボタンであるかを衝撃的な場面で知ることになる。

第2話 あなたはできると彼女は言った She said; "You Can Do It"
プーヤ(カヴェ・アハンガル)は、恋人ターミネ(ダリア・モフベリ)をオーストリアに留学させて一緒に外国で暮らそうと、パスポートを取得するために兵役につく。
ところが、死刑を執行する部署に配属され、早々に執行が命じられる。
どうしても人を殺したくないプーヤは、ある行動に出る…

第3話 誕生日Birthday
兵役中のジャワド(モハマド・ワリザデガン)は、死刑執行の任務を引き受けることで3日間の休暇を貰い、恋人ナナ(マフタブ・ゼルヴァティ)の誕生日にプロポーズをするため、ナナの実家にやってくる。
ところが、ナナの兄の知人でナナたちと家族同然の存在であるケイワン(ナナたちの思想的支え)が亡くなり葬儀の準備中であった。
ジャワドは自分以上にナナたちに大切に思われている存在に嫉妬を覚えるとともに、ある驚愕の事実を知り激しく動揺する…

第4話 私にキスを Kiss Me
医者をやめ田舎で養蜂を営むバーラム(モハマド・セディキメール)と妻ザマン(ジャイラ・シャイー)の家に、ドイツ在住の友人マンスールの娘で医大生のダルヤ(バラン・ラスロフ)が訪ねてくる。
やがて、自分にキスしようとしたバーラムに只ならぬ不安を感じたダルヤは、実の父親がバーラムであることや預けられた経緯を告げられる…

「もし、兵役当時に戻って、また誰かを処刑することを命ぜられたら、また守衛に銃を向けて逃げるだろう」
「君はなぜ、さっき、キツネを撃つことを拒んだ」

国家(の法律)に従わなければ、休暇が取れなかったり、医師免許を剥奪されたり、処刑されたりするイラン社会。
痛切に批判されているのは、個人を強制的に縛っている法律や体制。
イランを含むイスラム社会では、法律は西洋社会のように個人の自由と権利を守るものと考えられていないが、実は、日本など西洋諸国でも、法律は権力者にとって都合よく作られたり利用されている(権力者や支配者にとって都合の悪い法律は作られないのは、程度の差はあれ、どのような体制や社会であっても同じ)。
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