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セイント・フランシスのumisodachiのレビュー・感想・評価

セイント・フランシス(2019年製作の映画)
5.0



ケリー・オサリバンが脚本・主演を手掛けたヒューマンドラマ。

34歳のブリジットは定職にもつかず結婚もしていない。周りはとっくに大人になっているのに、自分だけ取り残されているような惨めな気持ちになっている。そんな中、ひと夏のナニーの仕事をゲット!レズビアンカップルに赤ちゃんが生まれるので、6歳の長女フランシスの面倒を看るというものだった。一筋縄ではいかないフランシスに手を焼きつつもなんとか奮闘するブリジットだったが、プライベートでとある問題が発生し……。

いやあー、これは素晴らしかった!こういう映画を待っていた!!

生理、育児の難しさ、産後の苦労、結婚などに対する周囲のプレッシャー、同性愛への偏見、中絶、不正出血……そういったリアルがリアルなまま露骨に描写されていて、泣けてきた。だって、これこそが私たちの生活であり、私たちの人生だから。

私は中高と女子高だったので、生理などについてはかなりオープンだった。教室内で生理用品を投げて渡したりね笑 だから、息子にも幼いころから生理については詳しく説明していて、彼は物心ついたときから「血の日」としてナチュラルに認識している。先日など、ちょっとお腹が痛いと私が言ったら「今日血の日だからじゃない?2日目が一番つらいっていうから」と心配してくれた。毎月毎月やってくるものについてコソコソするのがイヤだったし、大学生や社会人になってから生理についてあまりにも知識が乏しい男性たちを目の当たりにして愕然としたこともあり、そういうことについては機会があれば子どもにちゃんと説明しようと20代のころから決めていたのだ。

生理だけではない。身体的に女性ばかりが不利なことはけっこうある。妊娠リスク、痛み、10か月という妊娠期間、出産のダメージ、産後の体力の急激な低下などなど数え上げればきりがない。もちろん中絶についてもそうだ。

20代のとき、友人(男性)が「過去に当時の彼女との間にできた子を中絶した」という話をしてきたことがあった。私だけに打ち明けたわけではなく、その場には男性も含め数人いた。彼は感傷的な空気を出していたが、私は強い違和感を持った。

私自身はカトリックのクリスチャンだが、個人が中絶を選択することを否定する考えは一切ない。でも、どれだけ納得していたとしても身体的に負担がかかるのは間違いないし、女性にとって人生全体の中である程度大きな出来事にはなるはず。身体的には何の犠牲も払わない男性が、飲みの席でセンチメンタルトークのネタにしていたことに心がザラッとした。(「中絶したなら心から反省しろ」とかそういう話をしているわけではない)

そういった、人生で味わってきた心のザラつきや、なかなか人に言えない身体的な焦り(思わず出血してしまったなど)、「周りと比べて自分なんか」と思ってしまう自信のなさ……本作はそういう上手く言えない感情をガッシリと抱きしめてくれる。人生は選択の連続で、ときには後悔しながら前に進んでいる私たちを肯定してくれる。それも、何度も何度も何度も。

主演のケリー・オサリバンのリアリティはもちろんとして、フランシスを演じるラモナ・エディス=ウィリアムズが抜群に良い。ときに厳しく、ときに優しくブリジットを見つめるフェアな存在としてフランシスを完璧以上に表現している。

人生は映画みたいにはいかない。実際はカッコ悪いことの積み重ねだったりする。失敗もすれば嘘もつけば後悔だってする。みんなそう。でも、ゆっくりでも一歩一歩進んでいるなら胸を張っていい。大きな罪を犯していないと思うなら、自分がその選択でいいと思ったなら、何も懺悔しなくていい。観終わった後、あなたもきっと自分のことが少し好きになっているはずだ。

女性はもちろん、そうでない人にもぜひ観てほしい!




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