平野レミゼラブル

タイラー・レイク -命の奪還-の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.8
【サラッとトンでもないことを魅せつける“父なる闘争”】
あの『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を始めとしたMCU作品で、ヒーロー映画からは一線を画したドエレーCOOLでリアルな戦闘を魅せて転換期としてくれたルッソ兄弟製作のネトフリ産アクション映画。
監督にはスタント・コーディネーターのサム・ハーグレイブ、主演にマイティ・ソーのクリス・ヘムズワースが据えられているだけあって、やっぱりサラっととんでもないことやってるアクションでてんこ盛りとなっています。
加えて兄弟の内、弟(ジョー)の方が書いた脚本も中々に骨太で、割とベタではあるんですが、午後ローで流れる面白い映画風味で良い具合に楽しめる映画でしたヨ。

やっぱり何と言っても本作最大の見どころはアクションでして、キャプテン・アメリカよりも更にリアリティを重視したタイトな戦闘な為、派手さこそないのですがスマートさにおいては徹底されています。
アメリカンなマッチョマンな印象の強いクリヘムが屋内でスムーズに戦うっていうギャップが格好良いんだよなァ~。かと思えば、多対一の肉弾戦で思いっきり敵を投げ飛ばしたり、高所から落ちたり車に轢かれてもすぐに戦闘態勢に戻るなどの肉体強度の高さも健在。剛柔織り交ぜたアクションの切れ味が堪らないです。

特に圧巻なのが、中盤のカーチェイスからの屋内銃撃戦、パルクールによる逃走を経ての市街地での近接格闘…という一連のシークエンスを長回しによる疑似ワンカットで展開しているところ。昨年は『1917』や『狂武蔵』等の長回しメインによるアクション作品も多く作られましたが、本作はワンポイントとして長回しをブチ込んでアクセントにしてくるのが凄い。
極々自然にとんでもないことをやっているってことでして、そこを決してメインにしているわけではないんですよ。あくまでも、長い長い逃走への緊迫感を持たせるための要素として長回しを採用している。その為、最初に観た時は軽く流しかけて、「いや…今さりげなくとんでもないことやってなかったか…?」とビックリしてしまいました。

実際、撮影方法は狂っており、ハーグレイブ監督自らが車のフロントに乗ってカメラを回しているのがとんでもない撮影バカ一代すぎる……達磨一家かよ!!
元スタントマンだからこそ出来る荒業であり、これからもサラッとイカれたことやりそうで超楽しみですね……


話自体はドシンプルでして、クリヘム演じる傭兵のタイラー・レイクが、収監中に息子のオヴィを敵対する組織に誘拐された麻薬王から依頼を受けて奪還作戦に従事。無事、オヴィを連れ出すことに成功したタイラーだが、成功報酬を支払えない麻薬王は自身の右腕であるサジュを派遣してタイラー達の抹殺を目論む。タイラーとサジュが争う中で、敵対組織のボスであるアミールが包囲網を築きだすが…という三つ巴の争い。
麻薬王の支払いが無くなった時点でオヴィを守る必要性は無くなるのですが、タイラーにはかつて息子を病気で失った時にその死に様から逃げ出したことを後悔している設定があり、そこがタイラーとオヴィの関係性の在り方を強調しています。
それは疑似親子関係であり、殺伐とした短い時間の中で芽生える信頼という意味では『レオン』的な側面も持ちます。

面白いのはタイラーと敵対しているサジュも、ボスである麻薬王からオヴィを託された保護者としての役割を持っていることですね。サジュもボスの命令というだけでなく、自ら養っている家族がいるからこそオヴィの保護に命を賭けているのです。
そんなサジュに対して、タイラーはただ金で雇われるだけの傭兵でしたが、「過去の後悔」を「疑似的な息子への献身」で払拭する為にオヴィに寄り添っていくのが熱い。
この2人の対決というのは、ある意味親権争いでもあり、そして同時に麻薬王の息子だからこそ何より父親や暴力を嫌うオヴィが、どのような選択をするのかというドラマにも繋がってくるのです。

傭兵タイラーのマインドセットの一環である「水の中に沈む」や、戦闘の中でタイラーが見せた一つの情が回り回ってきて効いてくるラストも中々考えられていて、結構複雑な気持ちにこそなるものの、物語としてもしっかり面白いです。

いやしかし、ネトフリマネーと、アクション畑の人達の無茶で凄い作品が作られるってのも良いですね~。本作にも続編の製作が予定されているそうですが、ただ割とこれ単発の作品で完結はしているので「これを無理に膨らませなくても良くない?」って気持ちもそれなりに強いんですがはてさてどうなるか……

オススメ!