「婚前特急」の前田弘二監督らしい、ほのぼのとした味わいのラブコメディ。イケメンではあるがコミュニケーションが苦手で、彼女のできない数学ひと筋の予備校教師の役を、成田凌がリアリティ豊かに演じている。成田凌という役者は、役どころに応じて、まるで周囲の色調に溶け込むカメレオンのように演じ分けることができる。この作品でも、恋愛指南役となる清原果耶のツッコミ系の演技を受けて、「普通」がわからない世間知らずの男を淡々と演じている。最近の若手の俳優のなかでは、その演技力は抜きん出ているようにも感じる。
前田監督の作品は独特の役者の芝居のリズム感にいつも感心するが、今回の作品については脚本の高田亮とのタッグもかなりハマっている。成田と清原が交わす会話で物語は進んでいくので、どちらかというと舞台劇の感覚に近いのだが、不思議に観ていても飽きはこない。ということは、セリフが生きている、セリフが生かされているということになるだろう。その意味でも、成田凌を主人公に配した時点で、この作品の成功は見えていたかもしれない。成田と清原が語る「普通」とオフビートな映像感覚が見事にマッチした作品だ。
