岡田拓朗

まともじゃないのは君も一緒の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.1
まともじゃないのは君も一緒

コミカルな会話劇をベースに、「まとも」や「普通」の概念とそれらが取り巻く環境下での生き方について、直接的に色々と考えさせられる秀作。

ただただ脚本がおもしろいだけでなく、わりと深めな台詞も随所に散りばめられていて、生きる上で考えておきたいことを、狭い世界の中から色んな視点で考えさせられるから、日常に転化しやすいのがよかった。

まともじゃないのは「みんな」一緒と言われてるような感覚にもなり、それが逆にそれでいいじゃんと開き直れるきっかけの一つにもなるから晴れ晴れしくなる。

『オーバー・フェンス』『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』など、高田亮さんの脚本されている作品が基本的に好きで、それは本作にも描かれている「普通」に関する捉え方がよくて、その「普通」を共有し合うそれぞれが生むズレていながらも徐々に共鳴し合っていく物語と、ズレてる人同士が関わり続けることでしかとあり得ないそれぞれの着地点がとてもよいから。
特に『オーバー・フェンス』は、未だにオールタイムベスト級に好きな作品です。

世間一般から照らし合わせると人それぞれに自分はまともじゃないと思っている部分がありそうで、でもそれも自分にとっては結構まともで、結局まともって、普通ってなんなんだと、どこからどこまでがそうなんだと思うことも多い。
さらに知っているつもりみたいなことも、この世の中には多い。

その中でも、マナーやルール、常識も含めで、それらをある程度理解してたら、日常生活で必要なときに合わせられるので、あまり困ることはない。
ただ、それを知らなかった場合とそれらが自分の価値観や意思とは全然違う(違和感だらけの)普通が大半を占める生活をしている場合はどうなるだろう。
本作はそんな2人(前者が成田凌さん演じる大野康臣、後者が清原果耶さん演じる秋本香住のイメージ)を軸にした物語。

抽象と具体、感情と論理、直接と間接、知識と教養、ポジティブとネガティブ、自分と他人、当たり前の認識相違、物差しの違いなど、会話(コミュニケーション)のベースにあるそれぞれの普通の違いが噛み合わなさを生む。
その噛み合わなさが、クスッと笑える絶妙にコミカルな会話劇として落とし込まれてるのが、ベースに適度な軽さを生んでいて、気軽に観ていられる作品になってる。

そして、所属する集団や今まで自分が触れてきたもの、好きなもの、信じるものにおけるベースによって、それぞれの普通が形作られていく。
だから人の数ほど普通はあって、他の人から見たまともじゃないがある。

会話が噛み合ってるときは、よほどそれらの波長が合う人か、誰かが話に合わせていることが大半だろう。

でもその中にこの人とならどんな会話もなぜか自然と楽しめるような感覚もあって、それはとても特別なものなんだと思う。
ずっと一緒にいたいと思えるかどうかにおいて、意味のない会話が楽しいと思えることってとても大事だというのが大野と泉里香さん演じる戸川とのやりとり、また秋本から見た大野とのやりとりから凄く伝わってくる。

その大切さは意外と気づかなくて、特別なのに日常の中に入り込んでいってしまうものでもあって、意識されづらい要素の一つだと思う。

人が繋がり続ける観点を、波長や価値観が合う/合わないだけでなく、お互いに言いたいことを言い合える関係と意味のない会話が楽しめる関係に繋げていく視点がとてもよくて、そんな関係にズルっとハマっていくそれぞれの物語もよくてずっと観ていたくなった。

教える/教えられるの関係が、好き/好かれるの関係に発展していく王道な展開も盛り込み、98分という短さながらも飽きさせない仕掛けがたくさん入れられてるのもあって、中弛みなくとにかくずっと楽しめた!
そして、そんな変化に伴って色んな表情を見せる清原果耶さんの演技が抜群によかった。

P.S.
脚本に坂元裕二さんとクドカンさんの要素を若干感じた。
成田凌さんと清原果耶さんの掛け合いがとにかくよくて、お二人とも仕事選びが本当に素晴らしいと改めて思った。
様々な役柄を受けてしっかりこなしてるし、出てる作品のバランスもとてもよい。
役者としての理想の道を体現してるような感じがする。
特に清原果耶さんはどんな役でも抜群によくて、まだ10代であることに驚きを隠せない!
岡田拓朗

岡田拓朗