Ayu

ペルシャン・レッスン 戦場の教室のAyuのレビュー・感想・評価

4.5
どこかのメディアでおすすめされていたことから本作を知り、「架空のペルシャ語を作って生き延びる」と言う設定にとても興味が湧き(大学時代は翻訳や字幕制作の仕事に就くことを目指していた時期もあったので)絶対観たかった本作。18年ほど前に吹奏楽の演奏旅行で行ったヨーロッパ周遊の旅でドイツのダッハウ収容所で見た光景が忘れられず、ホロコーストを扱った実話ものの作品はなるべく観るようにしている。

冒頭の会話から129分最初から最後まで登場人物全員にひたすら救いがなくてとにかく辛くて辛くて、でも展開がシンプルに面白くて画面に惹きつけられている自分の感情の持って行きどころが分からなくなりなりながら、伏線たちが見事に回収されたクライマックスでマスクの上からハンカチで口を押さえてウッウッと嗚咽してしまった。主人公ジルの嘘がいつどうやってバレそうになるのか、ハラハラと彼と同じ感覚を疑似体験していくのがスリリングなエンタメだけでない塩梅が上手く、無音で終わるエンドロールのあとにどしっとした余韻を残す。

主演のジルとコッホ大尉のキャラクター造形が素晴らしくて、どちらも本当に悪い人ではないことが分かるし、でもどちらの運命にも説得性がとてもある。当時の時代の流れの恐ろしさがナチス親衛隊の収容所での日常(ダンスパーティーの相手選びや郷土料理のピクニック、そして食堂での恋愛のいざこざを含む日常的な会話)を描くことによってより増していく描き方がとにかく上手い。看守マックスだって時代が違えば好青年だったかもしれない(アコーディオン弾きながら歌えるのすごいし)

公開が全国4館だけなんて、こんなに素晴らしい映画なのにとても寂しいしもったいないので心の底から拡大上映して欲しい。年末ジャンボが当たったら全国のすずめの戸締まりのスクリーンを1個ずつ買って本作をかけます。
Ayu

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