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リトル・ガールの海のレビュー・感想・評価

リトル・ガール(2020年製作の映画)
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これから一生、怒りや悲しみや悔しさで泣くことなく、ただ笑ってこの可愛い女の子と彼女を愛するひとたちが暮らせることを、無理だとは分かっていても祈らずにはいられなかった。まだ7歳のサシャが、あんなに繊細な心のうごきを自身で見極めていることや、言うこと/言わないことが齎すものへの憂慮が(きっと大人のわたし以上に)鋭いこと、泣きたくない場面での大人みたいな仕草や、綺麗な涙を頬につたわせて母親を見るときの年相応な表情、それらについて思い出すだけで、わたしの心臓はちいさくなる感じがする。彼女はこれからもっと沢山の苦悩を経験することになるのだろうし、今でもここに映されている以上の痛みが彼女を襲っているのに、いつか自分ではもうどうしようもないほどに打ちひしがれ、朝ベッドから起き上がれなくなるような日も来るのかもしれないし、もしかしたらそういった日々が完結することはずっと無いのかもしれない。いま、サシャの振る舞いの、一つ一つに宿っている心に、わたしは感動し、本当にうつくしいと思った。単純な言葉だった、強くてやさしいひと、傷ついたぶんだけ強くてやさしいひと、それは容易なことではないけれど、もしかすると人間が一番ならなくてはいけない姿で、わたしの目に、サシャはそんなふうに映った。彼女がこれから覚えることになる、沢山の自分自身を表現するための言葉と、誰かを語りつぐための言葉、そしてそのときの表情のひとつ、呼吸のひとつ、手や、首や、からだ全体のうごきひとつに思いを馳せた。彼女の成長がおそろしい気持ちと、ただ待ち望む気持ち、その両方があった。サシャは可愛く、そしてうつくしい、ひとりの女の子で、ひとりのひとだった。
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