岡田拓朗

僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.5
僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

2020年ベスト級かもしれない。年間ベスト10には確実に入ってきそう。
でもこれは作品に対してというよりも、欅坂46という唯一無二な世界観を創り上げた彼女たちに敬意を表したい意味合いが大きい。

この映画は欅坂46のファンかどうかは関係なく、一つのドキュメンタリーとして今観るべき映画だと思ったため鑑賞した。

なぜそう思ったかというと、欅坂46は他のアイドルとは全く異なる唯一無二な世界観を築き上げていて、そこには彼女たちが思っていたアイドル像とのギャップもあっただろうし、その世界観を創る上での姿と普段の彼女たちとの姿のギャップもあっただろうとで二重のギャップがあり、また大人たちに支配されないと謳いながらも、支配されざるを得ない矛盾を孕んだアイドルの中でも、最も強いプレッシャーと葛藤があるグループであるだろうと思ったから。

アイドルとは何なのか。
ここまで唯一無二の独特な世界観を築き上げていくことに、頭を悩ませて苦悩し続けなければならないのだろうか。

自分はそこまで根強いファンではないので、あくまで客観的にこのドキュメンタリーを観たけど、本当に彼女たちが報われて欲しいと心の底から思ったし、自分は何もできないからせめて彼女たちの味方ではあり続けたいなと思った。

大衆に求められて、人気を博すことを必要とされるイメージが強いアイドル勢の中で、欅坂46とは今までのアイドル像を一新するような異質な世界観で、たくさんのファンを創り、多くの方々を魅了してきた。

多数派(マジョリティ)ではなく少数派(マイノリティ)として、大衆に迎合するのではなく対抗する身として、多くの人が抱えているであろう苦痛や心情を、代弁者のように表現し続けてきた。
そこには媚びる要素が一切なく、欅坂46ならではの世界観が驚くほどに確立されていたのである。

でもその代弁をするには、あまりにもメンバー全員が優しすぎて、いい子すぎて、健気すぎて…等身大の自分とアイドルとして魅せないといけない自分とのギャップに苦悩する姿に、泣き崩れそうになった。

最初は笑顔がたくさんあって、初々しくて緊張しながらも、今後への期待や希望が彼女らの中に見え隠れしていた。
ただし、曲がリリースされるごとに、それらの曲が過激さを増していき、彼女たちからどんどん笑顔がなくなっていってしまう。
あまりにも背負うものが大きくなりすぎて、彼女たちの想像を遥かに超えてしまっていたんだと思う。

ここまで頑張らなくてもいいんじゃないか、もう少し妥協してもいいんじゃないかと、何度も言ってあげたくなったけど、彼女ら自身がそれを絶対に許さない。

とても健気で、努力家で、頑張り屋さんで、だからこそどこまでも全てを背負って体現しようとし過ぎて、それでも満足できないと辛くなって、それでもファンの期待に応えないととさらに奮起して…本当に限界寸前でいつ壊れてもおかしくない状態だったんじゃないだろうか。

その中で映し出される彼女たちが自分自身じゃなく仲間やファン、そして何より欅坂46を想う気持ちが本当に強くて、それだけは真実なのかなと感じられた。
言葉では表現できないほどに、パフォーマンスが凄すぎて、本当に普段のときと同じ人間とは思えないほどだった。

さらにアイドルでありながら、自分が一番だと前に出るのではなく、みんなで欅坂46を共創していく姿勢に心を打たれた。
並外れた表現力と感受性を持つ平手友梨奈という天才を、みんなで支えるという構図。
バックダンサーだと思ったこともあったとメンバーの誰かが言っていたが、それだけ欅坂46の中心には平手友梨奈の存在があった。

彼女がいたからこそ欅坂46のあの世界観が成り立つんだと信じて支え続ける他のメンバーと、その世界観の確立を一身に受け止めて表現し続ける平手友梨奈。
自分が目立つということではなく、欅坂46の世界観を確立させる、曲を余すことなく表現し、ファンの期待に応え続けることに全神経が注がれているような感じがした。

もしかするとスタッフ側はここまで根詰めて追求するとは思っていなかったかもしれないが、やはり欅坂46の創り出している世界観や曲それぞれを背負うには、彼女たちには荷が重すぎたんじゃないだろうか。

それでも彼女たちは、何度も奮起して幾度となく立ちはだかる壁を乗り越えようとしたり、時に方向を変えながら自分にしか出せないものを表現に加えながら、欅坂46を守ろうと奮闘していた。

まだまだ色んな真実はあるだろうが、スタッフ側が欅坂46の彼女たちを守ろうというのが伝わってきた作風なのが救いだった。
スタッフ側が痛みを伴うような作りになってる。
こんな裏があるのに、そういう部分が見えないドキュメンタリーだったらどうしようと思ったが、その点に関してはよかった。

色んな方面からの期待を、想像以上に受け止め切って表現しようとする彼女たち。

これを観たら彼女たちをとても好きになれるし、応援したくなる。
そう思える作品でよかったです。
岡田拓朗

岡田拓朗