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ドント・ルック・アップのRenのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.5
面白すぎた!!Netflixが製作した最高の悲喜劇。年間トップ5レベル....!コメディの真髄を見ました。誰にでも分かる気候変動と世界の終わりの寓話。イソップ童話のように語り継ぐべき。

チャップリン作品や『博士の異常な愛情 ~』に代表される風刺コメディの新たな金字塔が、令和のとんでもない豪華さで打ち立てられた瞬間を目撃してしまった....!事前知識も予習も一切必要無し。やっぱり誰が観ても理解できかつ面白い直球のブラックユーモア・エンターテイメントを、この豪華さでやってくれたのが嬉しくてありがとうという感じ!
政界から報道、企業戦略からSNSまで、現代で考え得る限りの皮肉と風刺をあらゆる手札を尽くして詰め込んだ138分のトラジコメディ。ランドールとケイトが何処へ行っても・誰と出会っても、その先々でアダム・マッケイ監督が舌を出して待ち構えているような。それくらい意地悪で不真面目でアイロニカルな笑いが詰め込まれています。たまたまこの時代に生まれた我々、そして社会そのものを隅から隅まで笑い飛ばすのが恐ろしくてサイテーで面白すぎる。

プロットの基本は彗星衝突の災害&タイムリミットものなので、非常に分かりやすくのめり込めました。当然ラストは彗星が地球にぶつかるかorぶつからないかの二択になるんだけどそこは....。あの終わり方もいい。
バサバサカット割って、ぶつ切りに近い形でシーンの転換をして(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』にも通ずるナンセンスな編集の感じもあり)、でも疲れない小気味良さがこの脚本を一段と面白くしている気がします。終盤のカットバックも良く、緊迫感の糸は張ったままに静と動が行ったり来たりする交互浴的快感があった。

隕石が来てるから見て見ぬフリして無いことにすりゃいいのか。隕石を見上げて強く生きようと心に誓えばいいのか。映画を観て世界に転がる社会問題のことを知った気になるだけで、何も行動に移さない我々観客のような人間までもを冷笑していく。
人間はここまで愚かではないよーと信じたい気持ちも分かるが、でも作中のあらゆるやり取り・会話は実際に見たことがある気がするし、絶対歴史上のどこかで行われていたはずだと思えてしまう。

こんなこと起こるはずがない!権力者はもっと賢いんだ!と主張したがる人を片っ端から蹴落とす。キャスターが「深刻なニュースを楽しく報道するのが仕事だ」的な発言をした上で、必死に取り合おうとする天文学者の言い分を全部ジョークで受け流すのが、この『ドント・ルック・アップ』という映画そのものさえ嘲笑っているかのようでヤバい。この映画の存在意義を定義するために自身を否定してる。
「社会」を「批判」する一歩先、「社会批判」を「批判」する最強の映画。

長めの映画だけど、体感は120分もなかったくらいずっと夢中だった。もはやここまでくると考察とかでもない。ただただ面白いので、自信を持っておすすめ!
評論家筋の評価はばっくり割れているようだけど、おそらくオスカーには思い切り絡んでくるでしょう。2022年の『ジョーカー』『プロミシング・ヤング・ウーマン』枠。

その他、
○ 科学者が対峙する権力として「政権」「メディア」があるのは当然のこと、「巨大民間企業」がかなり長尺で出てくるのは面白かった。
○ "Just look up!" vs "Don’t look up!" 。見たいものだけを見る盲信っぷりが民意を狂わせる。まんまコロナ禍じゃん。
○ レオ様の演技は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に通ずるところあり。
○『世界にひとつのプレイブック』のときはあまり感じなかったジェニファー・ローレンスの魅力。好きになりました。
○ 上記2人が狂言回し、残りのキャストは全員ボケ。
○ 反トランプ派のメリル・ストリープがトランプみたいな役をノリノリで演じてて最高。オスカーを3度受賞した大御所の余裕。
○ ちょっとワルいシャラメが最高。こういう役もっと見たい。信仰がある種の盲目性を孕む一方、信仰は “救い“ でもある、ということを体現するのが他でもない彼。
○ 個人的MVPはマーク・ライアンス。
○ ポストクレジットも面白いには面白いけど、本編と比べて笑いのテイストがB級な気がしてしまった....。
○ チャリティーコンサート(笑)を冷笑する監督の視線。コンサートで何の問題が解決するんだよという多くの人が一度は思った疑問への火の玉ストレート。
○ 2021年タイトルコール大賞。
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