ずどこんちょ

ドント・ルック・アップのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
3.6
人類滅亡規模の彗星を発見した天文学教授と大学院生。緊急事態で大統領に報告のため接見することとなった待合室で、不安と緊張のあまりゴミ箱を抱えて吐き出す学生。そしてタイトル。
いや、このカットでタイトル出すんかいのシュールなオープニングで幕開けです。
それにしても豪華な共演でしたね……

彗星衝突という危機に直面した人類の闘いと言ったら、SF映画でよくあるテーマですが、本作はブラックコメディです。
この人類滅亡の危機に瀕して、それに対応する人間が現実から目を逸らした愚か者ばかりでとても残念なのです。彗星を発見したミンディ博士とケイトが懸命にその深刻さを訴えても、大統領は聞く耳も持ちません。
今度はメディアで訴えようとテレビ番組に出演するも、メディア関係者は視聴率を重視して深刻な訴えもジョークに変えてしまう始末。おかげでケイトはネットの笑い者にされてしまいます。

不祥事で支持率が下落したことをきっかけとし、ようやく大統領が彗星衝突を改めて調査してこの問題に向き合い始めてくれます。
しかし、人類の希望を負って軌道修正計画のため打ち上げたロケットは突然の計画中止。その理由はなんと、彗星の中に世界の覇権を変えるほどのレアアースが含まれていることが発覚したからなのです。
大統領は地球の危機を救うためでなく、自分たちが利益を得るために彗星を利用する作戦に乗り換えてしまいます。

まぁ総じて、本作の権力者や政治家はそういった問題の本質が見えていない者ばかりで、科学者の真摯な意見も切り捨ててしまうのです。彼らは都合の悪い現実から目を背け、都合の良い問題に話をすり替えます。浅ましい限り。
あり得ないだろうと思ってしまうようなブラックジョークなのですが、本作が公開された当時のコロナ対策を思い返してみれば、似たような政治的采配が行われていたような気がします。現実も同様に皮肉なコメディだったのではないでしょうか。

権力者や政治家のみならず、本作では様々な立場にいる人間の愚かさがシニカルに描かれます。
メディアの人間はニュースの内容よりも視聴率やバズる方が大事だし、スティーブ・ジョブズを彷彿とさせるカリスマCEOは科学者や専門家の意見に耳を貸さずに自分の作戦を遂行します。しかも裏で限られた人間だけ地球から逃げ出す作戦も立てている。
世界を救うために飛び立った宇宙飛行士が古い価値観で、人種差別的発言を平然と言い放ったのは笑いながら引きました。
ミンディ博士とケイトがもはや政府に頼ることなく彗星破壊作戦を遂行する運動を始めると、大統領は「ドント・ルック・アップ」というスローガンでそれに対抗。
それはただの、不都合な真実から国民の目を逸らすための誘導なのですが、彗星は確実に形を表し始めてきて、国民も真実がどこにあるのか見えてくるのです。
政府が真実を語っていないという不信感は現実にも存在するため、そういったいくつもの鋭く尖りまくっているジョークがゾッとします。

そして、本作ではそのゾッとするジョークが驚くことに最後の最後まで続きました。
正しくスピーディに真実を語ろうとしない数%の人間に振り回され、残りの数十%の人類がその災禍に巻き込まれてしまいます。
戦争が起こる時も、ウイルスが蔓延した時も、確かに人類はそうだったかもしれません。
巻き込まれた人類は抵抗する術もなく、祈りながら時を迎えるしかない。そうなる前に、然るべき立場にいる人間には私利私欲を捨てて正しい声に耳を傾け、人々が連携して救われる判断を下してほしいものです。

今この段階でも、もしかしたら一部の人間だけが知り得て隠されている人類滅亡の危機が存在しているかもしれない……と考えると何よりゾッとしました。