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僕は猟師になったのsomaddesignのレビュー・感想・評価

僕は猟師になった(2020年製作の映画)
5.0
命を食べている事実を再確認

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京都大学文学部在籍中に罠狩猟免許を取り、現在は運送会社で働きながら京都の街と山の境に暮らす千松信也さん。ワナでとらえたイノシシやシカを木などで殴打し気絶させ、ナイフでとどめをさす。自然の中で命と向き合う千松さんの日常から、真の豊かさとは何かを問いかけていく。
2008年に出版された「ぼくは猟師になった」で知られる、罠猟師・千松信也さんに密着したドキュメンタリー。2018年にNHKで放送された「ノーナレ けもの道 京都いのちの」の取材スタッフが300日追加取材した約2年間の映像に池松壮亮のナレーションを加え、劇場版作品として再構成した。

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読んでてよかった「山賊ダイアリー」。
以降の「罠ガール」「クマ撃ちの女」や「猟師になりたい」といった狩猟ブームの先鞭となった千松信也さんの「ぼくは猟師になった」のNHKドキュメント増補改訂版。


もしかしたら現代消費社会から隠遁して、ロハスでスローライフな生活を礼賛する意識高い系の映画かと思ってた。千松家の人たちが全然説教臭くない人達で、町と山の中間に暮らす楽しみを満喫してる。四季折々の千松家ホームビデオを見てるよう。

千松さんは自分たちが食べる分しか狩猟しないので、仕事としてイノシシを駆除するわけでもなければ、まして趣味でやってるわけでもない。そもそも山奥に暮らしてるわけでもないので、フツーに仕事もすれば居酒屋に寄ることもあるそうだ。
仕事でも趣味でもなく、あくまで生活の一部として狩猟をし肉や脂を得る。誰かに屠殺を押しつけず、じかに命を頂く重さを感じようとする生き方を選択した結果に見えた。

「命を奪うことに慣れることはない」
美しい空撮の山の風景から一転、薄暗い木々の下で繰り広げられる命のやり取りがリアル。罠にかかってるとはいえ、手負いのイノシシに襲われたら大怪我じゃ済まないだろう。


一方で動物保護を訴える都市部の人たちと、害獣被害に悩む農村部の乖離も写し出す。
捕獲されたイノシシやシカを専門に処理する施設まであるなんて知らなかった。それくらい数多く人里に現れてしまうってことなのか、人が彼らの世界を削り分け入ってしまったのか。(猟師の高齢化が進んで後継者も減り、害獣駆除が進まないとの説も)
処理場に山と積まれたイノシシの死体。そのまま骨まで焼かれ、残った灰は産廃ゴミとして業者に引き取られる。
千松家の食卓を見た後だと、命が捨てられる残酷さより「もったいない」と感じてしまった。ジビエ屋さんで食べるといい値段するのに、場所によっては行政が補助金出してまで殺処分するから不思議。


ドローンで空撮される山々や京都の四季が美しい。苔むした岩や朝露を湛えた山菜のドアップ……生と死の描きわけが印象に残った。なんかこうジブリ映画みたいな映像のテンポ感も感じた。


44本目
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