シャチ状球体

僕が大人になる前に/ビッグな僕の青春のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

3.8
この映画、U-NEXTでは『ビッグな僕の青春』という別題で配信されていて、これだと80年代の青春ラブコメみたいで再生意欲が薄れると思う。

"『僕が大人になる前に』"はその名の通り、16歳のモンローが一回り年の離れたジークと仲を深めていく話。
『アメリカン・スリープオーバー』のように高校生活の中に色濃く存在する強固な異性愛規範とジェンダーロールを暗に批判していて、モンローが背伸びをしてマリファナを売ったりジークとその仲間たちに影響されて粗暴に振舞うようになっていくのは痛々しい。

お酒を飲んだり、同じ年の学生ではなくジーク達としか時間を過ごさなかったり、破滅的な恋愛をしたり……。居場所や行き場がなくてそういう状態になってしまうのは分かるけど、特に困りごとがないのに大人の仲間入りをしたいという理由だけで危険なことに手を出してしまうのは当人や周囲に良くない影響が残るだけで何も得られることがない。

劇中でモンローは何度も失敗をする。相手を傷つけたり、自分も傷ついたり。男性ジェンダーの高校生が大人の真似をするということは、セルフケアを怠って他人に支配的な振る舞いをし、健康と精神の公平を破壊する行為に他ならない。両親の信頼と友人を失ったその先には何が残るのだろう。
ジークが極悪人だったわけでも、モンローが特別愚かだったわけでもない。そこが強調されていないことで終わり方が煮え切らないという難点もあるので、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)によって身を滅ぼしてしまう登場人物の姿をもっと前面に出してもよかったような気がする……。
とはいえ、ジーク役のピート・デヴィッドソンがどこにでもいそうな社会に適応できない青年を好演していて、脚本次第では代表作になったであろうポテンシャルがあることは確か。2番目のタイトルほど悪い映画じゃない。
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