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空白のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.5
【私的副題】
攻撃的コミュニケーションが横行する現代における「北風と太陽」

【あらすじ】
女子中学生の添田花音(伊東蒼)はスーパーで万引しようとしたところを店長の青柳直人(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。娘に無関心だった花音の父・充(古田新太)は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに恐ろしいモンスターと化し、事態は思わぬ方向へと展開していく(映画.comより)

○娘を失った充は悲しみのあまり、復讐することに執着する。加速度的に。
○万引き行為に対して当たり前の行動をとっただけの店長(松坂桃李)は謝罪しても相手に届かず自身の折り合いがつかない。
○店長を支えたいと思うスーパーの店員(寺島しのぶ)は正しさの押し売りに執着し、仲間を抑圧している。自分を善良な市民と信じて疑わない。
○ウソ臭い正義感で世間を煽り立て、空々しい言葉を垂れ流すだけの醜いマスコミ。 
○事なかれ主義、責任逃れに終始する学校。

他者を責めたてるだけで、自分自身の痛みや他人の辛さに向き合わない。
見たくない物から目を背ける我々の社会。
地面に散らばりホウキとチリトリで片付けられた海苔弁当やカレーの残骸のカットが印象的。

中盤までは重く辛く、先に光が見えない。

ーーーここからネタバレーーーーーー

ただ一人だけ誠実な謝罪をしていた、不運にも花音を轢いてしまった女性(野村麻純)。彼女は自殺してしまった後のお葬式での母親(片岡礼子)の対応。
全方位に敵意むき出しの充に浴びせられたまさかのカウンターパンチ。
北風と太陽の例えでいうと、モンスターたる充の鎧を脱がせた一番の要因は彼女の振る舞い方。
(ここで発せられるこの母親言葉は、我が子のお葬式でなかなか言えるもんではない。自分の痛みに向き合い、同じ痛みを味わった他者へのいたわりに満ちあふれている。
片岡礼子さん、出番は少ないけこの見せ場での演技が素晴らしかった。個人的に本作MVP)

憑物が取れたような充の表情。古田新太さすが。娘が何を好きで何を求めていたのか。 
自分の痛みと向き合う事。自分の落ち度を認める事。惨劇と折り合いをつける事。誠意をもって謝罪する事。

その上での「疲れたなぁ」「少し時間が欲しいんだ」という言葉の重み。向き合い、折り合いを付けるには「疲れる」し「時間がかかる」けれども、そこからでした出発できない。

絵画というモチーフの使い方が秀逸。
人はなくなっても作品は残り続ける。絵画を通して花音と対話する充。表現者への祝福、応援ともとれる。

空に浮かんだ雲は父と母と娘、3匹のイルカ。
これだけ多作にして、どの作品も高クオリティな吉田恵輔さんの純度の高い再生の物語だった。
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