万引きを疑われた女の子は店を飛び出し、道路に走り込むと死角から来た車に轢かれてしまう。言うなればこれだけが紛れもない事実。万引きをしたかどうかさえ自明にしない脚本が、そのまま私たちが日々目にして過ぎ去っていくニュースの歪な形を体現している。その事件について私たちは何も見ていない。知らないのに怒る無責任が輪廻する。前半の30分はクソな現実を再確認するだけの嫌いな映画かもしれないと思ったけど、吉田恵輔の信念が貫かれた物語に徐々に引き込まれた。自分が実感をもって触れられるのは、空に浮かぶイルカの形をした雲の美しさであり、スーパーで買ったやきとり弁当のおいしさくらいだ。そこから話を始めさせてくれないか。
