先日「ブルー」が素晴らしかった吉田恵輔監督の新作…タイトルが…いつもながら心を鷲掴みするような出方をする!
「空白」
「空白」って一体何か?
よく人が大切なものを失った時「心にぽっかり穴が」なんていうけどこれは分かりやすい例で…
人は誰でも多かれ少なかれ空白を抱えて生きていると思う。闇とか矛盾とかとも言い変えられるもの…それを自覚してなかったりもする。
そして突然それは起こる…
「不幸な出来事」
いいとか悪いとか正しいとか正しくないとかそんなことは関係なく関わった人たちの様々な空白を暴き出し…そしてその空白に何かどす黒いものが流れ込み人を狂わせていく…
古田新太が抱えていた空白は娘を失った事だけではなくむしろ生前の娘に向き合えてなかった自分という空白が彼をモンスターに豹変させていく…
とにかく映画冒頭から頑固で暴力的で昭和の生き残り…現代ではモラハラやパワハラとしか捉えられないクソオヤジっぷり…古田新太見事です。
とにかく「不幸な出来事」がそれに関わった人々の空白をさらけ出す。松坂桃李はもちろん彼のスーパーの従業員・寺島しのぶの「無自覚お節介善意モンスター」ぶりの見事さ…ボランティアで彼女に怒鳴られて震え上がるとろい女の子…事故を起こした(巻き込まれた?)ドライバーの女性…その母親…古田の別れた妻と新しい旦那…とにかく登場人物たちの「空白」を丁寧に描いていく…胸が悪くなるようなホラーだよ…
マスコミやSNSなんかの描き方が誇張が過ぎるという意見もあるようだが、あれは世間一般の人たち…つまりおれたちの望んでいることかもしれないとゾッとさせられる。
例えば…今日
3歳の交際相手の子供に数分間熱湯をかけ続けて殺した男のニュースがワイドショーを賑わせている…
「なんて酷いことを!こいつにも同じことをしてやれよ!熱湯ビックリ遊びだよ〜って!」
そう、思わない?
例えば…卑劣な犯行を写した防犯ビデオの画像…
「その顔のモザイク取って世間に晒せよ!なんでこんな野郎の人権に配慮してんだよ!」
そう思わない?
おれと同じように感じている人…おれたちがこの映画に出てくるマスコミやSNS社会を作っているんじゃないか?
その感情はおれたちも持っている「空白」なのだ…
延々とそんな空白を見せられていったいこれにどんな着地が待っているんだ?と思い始めたところに微かな光がその空白に差し込んでくる…
明らかにある出来事から古田新太が変わる…
もう手遅れだろうって言いたいくらい僅かな変化なんだけど…
その微かな光は意外なところからさしてくる…
松坂桃李にも…
おれはこの僅かな光が見えてくる終盤涙が止まらなくなった…
映画が終わった時、初日なのに数人しか入ってないユナイテッドシネマでおれは嗚咽が他の客に聞こえないように口を押さえて号泣してた…
吉田恵輔監督のラストシーンの素晴らしさは前から言ってるけど今回はとにかくすごい…
この恐ろしい「空白」をちょっと俯瞰から眺めてる藤原季節クン(「佐々木、イン、マイマイン」良かったよね!)が最高!
中身すっかすっかのチャラ男に見せといて実は誰よりも「空白」の少ない男だというのが分かってくる。だから余裕があって優しいのだ…
この救いのないお話の中でとにかくおれを癒やしてくれたのです。
この映画はおれ自身の「空白」をも見つめ直す機会を与えてくれて…そしてほんの少しの光をそこにさしてくれたように感じました。
おまえもクズだろ?
でっかい空白を抱えてるだろ?