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空白のnokonokoooのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
2.9
人は状況・環境によって
良い人にも悪い人にもなって
加害者にも被害者にもなる。

かのんを追いかける店長、
ビラ配りするくさかべさん、
学校とスーパーを追及する父親、
みんな自分の正義を信じる瞬間、
時に気持ち悪く、時に危ういほどに
真っ直ぐだった。

亡き娘を語る母親のシーンひとつ、
自分が娘を語る言葉を持たないことに
気づかせるには十分な威力があった。

娘を亡くした。
娘を知り始めた。
同じ景色を見ていたことを知った。
自分の所有物を侵された怒りに始まり
愛する人を失った悲しみと後悔で
幕を閉じる、ヒューマンドラマだった。

見ず知らずの他人の一言に
不意に心の柔らかい場所を
突かれる瞬間がある。

人が交わって生きていく残酷さと
悪戯な悪意と同時に
そんな温かさが描かれている。

ただこの父親、一番
謝らなきゃいけない相手(娘)に
謝ってないんだよなぁ。
不器用では、済まされない。
娘は最後まで救われない。

なんで万引きしたのか
なんで逃げたのか
その背景には絶対に父親がいるはずなのに
そこは置き去りで
この作品の中で彼女は
一人の人間としての
尊厳は取り戻せない。
ずっと父親の所有物のまま。

一応、藤原季節と田畑智子が
見てる側の代弁者にはなってるけど
言い出せなかった三者面談、
透明のマニキュアと
くまの人形に隠したコスメ、
どんな思いでそれらを持っていたのか、
娘の気持ちになると切なすぎる。

父親に同情的だけど、
社会に娘が父親の所有物である
というコンセンサスがあり、
そのことに同意しているようにも見えた
父親自身の責任を
透明化するべきではない。

だからこそタイトルが空白なのかな。
どんなに今から愛し始めても
取り戻せないもの。
いや、そんなことないよね。
空白が指すのは、万引きのとき
松坂桃李が痴漢したのかどうかだよね。

父親への批評性が見える視点が
もう少し欲しかった。
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