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空白の8637のネタバレレビュー・内容・結末

空白(2021年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

全てがおかしい。
彼女が轢かれたあの瞬間からずっと胸が痛む。実際観終えた僕は、家に帰るのも、横断歩道を渡るのも怖かった。だけど僕らはそうやって当たり前をこなしてきた。たまたま自分が通った瞬間に車も同じ点を通っていた、それだけといえばそんな気もする。されどそれが人の命を終え、罪を生む。
軽い罪のせいで、重い罪が生まれてしまった。加害者が被害者で、被害者が加害者となったこの現状を考えると「誰も悪くない」なんて慰めの言葉がよく出るが、そこに罪があった事、罪が罪を生み連鎖していった事は変わらない。
ここまで直接的に、中学生の尊い命が終わる瞬間を映し出していた事から、適当でない演出を感じ取れる。娘は女子中学生だから、僕と同い年かそれ以下って事だよね。苦しすぎる。

まず初めに、何故だか僕は直人のような人間なんだと思えてきた。一言目にいつも謝って自己を防衛する事も、自分が分からなくなって無意味な怒鳴り声を発してしまう事も、死にたいという意思と自分の行動が乖離する事もよく分かった。充に対しての降伏が出来ない事も。世間から注目されたその瞬間だけ態度を弁えても仕方がないのに。
ただここで、充のことも悪く言えない節があって。自分の落ち度に気づいた瞬間、卑怯な行為はしていたけれど、態度を変えた。それは、狂気じみた"豹変"と捉えられるべきではなく、明らかに彼自身が非を認めたという事だ。

そう考えるとやはり一番卑劣なのはメディアだろう。テレビには誰かが命懸けて告げた真実を好きに捻じ曲げる権利がある、なんて誰かが言ったか?そんな権利は存在してはならないし、存在していないはずなのに勝手にやってる。
そして、あんなに血の色を変えて報道していたのに、いつかは過ぎ去って行く。真実を知る人はほんの一部しかいないままで。

僕が観ながら思いついた解決法は、取材を受けるとして、受け手の自分自身が映像なり音源なりで個人的に記録し、万が一の場合にそれを拡散する事。それでやっと、媒体の悪意ある編集によって消された本当の思いが見えてきて、少しばかり印象は変わってくるかもしれない。
まぁ、そうしたところでメディアが報道する事がその人への主なインプレッションでとして固定される事に変わりはないはずなのだが。

正直もう、どうすることもできない。
リアルだったら、分かる範囲でしか事件を観察せず、その状態でおかしいと思った事を呟いて、それが世間の主張になって、当事者への悪影響になって、結局死ぬかヒソヒソ生きるかのどちらかに決まっている。この"携帯"という"形態"ができた以上もう変えることはできない。だから僕にできる事もない。
そして、そうやって諦める主張をすることが炎上の火種になったりもする。それは何と無常で、執拗な世の中か。

例を挙げると、直人が倒れた父の電話に応えずパチンコをしていたというエピソード。誰にだってそれぐらいの悪意ある行動なんてあるし、それは悪意と言えないくらい微々たる悪意かもしれない。しかしそれが誰かに見つかると、大袈裟に叩かれる。叩いている当人はそんな事なんて一度もしていない、まっさらな善人かのように。

マジで、応援上映のようなものをしたいと思うほど、叫ぶのを堪えていた。スターサンズの映画でよくこの不条理さを感じるので、本当に訴えかけたい事のある配給会社なんだなと思った。
何ならこの殺人は、予告にすら登場しないあのトラックさえなければ...なんて思うので、その運転手の取り調べはサラッと終わって、まだ命を取り留められたとも言える地点の女性運転手ばかりが責め立てられる顛末も悔しくてならない。

今年は「ヤクザと家族」然り、負の連鎖を体感的に軽減させる存在としての寺島しのぶの使い方が上手かった。
また、どんなことがあったとしても、藤原季節や奥野瑛太のような優しさを持っていければなと思った。薄情さから親切を垣間見せるのが上手。

そう。ずっと迷ってきた。何が正しいのか。いや、正しいとか正しくないって誰が決めた事なのかと。
どこかで負の連鎖が起こっている事に僕は気づかない。映画でしか気づけない。それぞれが考える"正解"が違う事も、またこの負がループしていくことの原因かもしれないと思う。

「空白」というタイトルが、余りにも漠然としすぎている。僕はこれを、彼らが心を傷めた、この"黒歴史"にしたいような期間の事だと思った。その"空白"は、メディアを通しては観ることが叶わない。僕は今、そんな大切なものを観た。その"空白"を埋めるものが、悪意ではない、恥ずかしいなりの正義とかならいいな。


言いたい事ばかりを書いてまとまりが悪くなったので、最後に、父がこれを観て僕に送ってきたLINEを、本人の承諾を得た上で紹介したいと思います。
「パパはあの子はあの日は万引きしてないと思った。店員は普通、盗んでお店から出たことを確認して捕まえるから。イタズラ目的だったと思った。
復讐は負の連鎖を招くだけで誰も幸せにならない。あの若い漁師のように苦しんでる人に手を差し伸べられる人になりたいし、(僕の名前)にもそういう人になって欲しい。」
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