【あらすじ】
スーパーの店長・青柳は、ある日化粧品を万引きした中学生・花音をつかまえる。
しかし花音は逃走し、突然道路に飛び出したところを相次いで車にはねられ死亡してしまう。
そして、娘の花音に無関心だった父親・充はこの事件をきっかけにモンスターと化してしまい・・・。
【事前情報】
今作のモチーフは、川崎市の古本屋で発生した万引き事件だそう。
この事件に吉田監督が感じた違和感であったり、胸糞悪さが劇中でうまく表現されていると思います。
👇以下、ネタバレ含みます👇
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【所感】
今作を観て、どうしても池袋の暴走事故を思い出してしまう。
シチュエーションは異なるけど、胸糞であることに変わりはない。
今作との一番の違いは、悪人がはっきりしていること。
そして今作との一番の共通点は、法律だけでは適切に裁くことができず、何が正解なのか、答えが無いこと。
古田新太と松坂桃李。
二人とも凄い俳優なのは間違いないが、今作でその凄さが更に強調されている気がする。
よくいそうな亭主関白で頑固オヤジの充。
歩き方が特徴的で、遠くのシルエットで誰が来たのかわかる。
「ほらほら、やってきましたよ」と。
そして気の弱い店長役の松坂桃李。
孤狼の血2の日岡役から、180度違う今作の青柳役。
今時の若手俳優はカメレオン的な役者が多く、いい意味で枠にとらわれない俳優像の代表格ではないでしょうか?
今作で象徴的なのは、登場人物同士のコミュニケーションが微妙に嚙み合わないこと。
パートの草加部やメディアの偏向報道も絵にかいたような違和感。
この違和感が胸糞悪さを増長していて、なおかつ絶妙なバランスを保っていると思う。
これだけ誰も救われない状況なのに、終盤に向けて明確ではないけれども収束していくであるであろう、一種の救いの光が見える展開が秀逸。
自然に「そうそう、こういう展開になって欲しかったんだよ!!」と多くの観客が感じるストーリー。
観終わった後、胸糞だけど不思議な救いがあるストーリーにカタルシスを覚えるような傑作だと思います。
【まとめ】
タイトルの空白。
今作には表面的な空白も、感情的な空白も両方描かれていて、どちらかにバランスが傾き過ぎているわけでもない。
この空白は永遠に埋まることはないけれど、当事者同士の適切なコミュニケーションで少しは緩和されるであろう。
そういった一種の救いをしっかりと想起させる終わり方に、現実の胸糞な事故・事件もせめてこうであって欲しいと強く願わずにはいられない。