しゅんまつもと

空白のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.5
誰が善いとか誰が悪いとか、ほんっとうにどうでもいい。他人のすべてなんてわかるわけがない。

映画内でカメラが執拗に誰かの背中を追うように、わたしたちは誰かの一面ずつしか見ることができない。

自分は映画の中で、理不尽に誰かの命が奪われてしまうことや誰かが一方的に辱められてしまうことについては、映画の中であっても本当にそうするべきだったのかと考えてしまう。
もちろんこの作品の中にもそれを感じる部分もあった。本当に彼女たちは人生の幕を下ろす必要があったのかと。

誰かが死んだ、だから失った人はこうなった。悲しい事件が起こった。だからこの人は人生を見つめ直した。それでは結果ありきで誰かの命が奪われている気がしてならない。それが何より辛い。

でも『空白』はその順接の外側から、"それでも"これがある。というところに向かっていく映画だと思う。そもそもこの映画は変化なんて描こうとすらしてないと思う。文法的にこれが順接とどう違うのかは個人的な感覚ではある。
順接で結びきれない事象の中で正論や真実はまったく意味を成さない。
善意も悪意もあらゆるところで循環してくなかで「お弁当、美味しかったです」という自分が吐いた言葉に絶望する時もあれば同じ言葉に救われることもあるということ。

それが編集においても表現されていて、偽善者と罵られた草加部さんが浜辺を掃除していたシーンから、網の中の空き瓶で添田が手を切るシーンへと繋がる。対立する二つは緩く、でも確実に繋がっている。
こんな安い言い方したかないけど、その繋がりこそすべてなんじゃないかと思う。

とりあえず今はちりとりの中に掃かれたカレーとそのときに彼女が流した涙のことだけを考えたい。