岡田拓朗

青くて痛くて脆いの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

青くて痛くて脆い(2020年製作の映画)
3.9
青くて痛くて脆い

彼女は死んだ。僕は忘れない。

物凄く痛かった。
本当に「青くて痛くて脆い」だった。

途中までよい意味でミスリードされてたから、宣伝と作品の見せ方がとてもよかったと思う。
そのミスリードであった「彼女の死」に気づけたとき、物語が予期してなかった方向に変わり、よりこの世界観に没入することができる。

秋好は理想を掲げながら日々を生きていた。
その理想を極端に目指すあまり、空気が読めずに、周囲から浮いている存在であった。
ただ逆を言えば真っ向から自分の理想を、人の目を気にせずに大勢の前でも主張することができる芯が物凄く強いとも言える。

彼女の主張は理想論だと揶揄されるが、それでも理想なら何でそれを目指さないのだと彼女は、本気でその理想に向かって奮闘していく決意を固めている。
彼女の自らの意思に対しての本気度と自信は相当のものだ。

かたやで自分が傷つかれたり嫌われないように、人を傷つけないことを最優先に生きてきた田端。
初めは断ることができずに、仕方なく話を聞いていた感じだが、徐々に彼女に感化されていく。

そんな2人が自分たちの理想を実現するために、モアイという団体を立ち上げることになるのだが…

本当は出会うべきでなかった2人だったかもしれない。
特に田端にとって秋好は、今までの人生から住む世界が違いすぎるから。
でも住む世界が違うということは、お互いによい影響を与え合って、自分をよい方向に変えていけることもあり、それは本作の原作である住野よるさんが『君の膵臓をたべたい』でも描いていることだ。

ただし、その住む世界が全く違う2人が関わり合っていくということは、そんな綺麗な物語だけが生まれるわけではない。
本作にはそのような関係によって起こる弊害について描かれている。
自らの書いた小説の価値観を真っ向から壊しにかかってくる内容だからなおさら衝撃が走る。

誰もに対して打ち解けられて、話を聞いてくれる人が次々に現れる秋好。
関わる前から住む世界が違う(そうなる)ことはわかっていたはずなのに、仲良くなってお互いの中でしかわかち合えないものができてきて、それによって心情が変わり、ついには特別な想いを抱くようになる。

元々自分の意思なんてそこ(モアイ)にはなかった(あったとしても伝えていなかった)はずなのに、自分の思い通りにいかないことで、その原因の矛先を自分ではなく他者に向けてしまい、全てを自分以外のせいにする。
それも「たったそれだけのことで」と言われてしまうことが原因で。
でもそれはその人にとってはそれだけのことでも、当人にとっては物凄く大きくて大事なことであり、ここに田端と秋好の埋められない溝ができてしまっている。

秋好は何も変わってなかった。
変わっていったのは田端で、その当人は取り巻く状況に変化が生まれていく中で、置いてけぼりにされていったと感じてしまっただけでしかなかった。
ここが後悔としてしっかりと描かれているのもよい。

自分には持っていない何かを持っている人への羨望とその裏に見え隠れする嫉妬、自意識から芽生える裏切られたという被害妄想に近い感覚、何かに対して頑張っている人を意識高い系と何かしらの理由をつけて揶揄していく悪しき連鎖。

ここまではいかないにしても、何かしらで思い当たる節がある人がいるのではないだろうか。
そしてそれが最も強く現れるのが大学生活という期間なのではないだろうか。
良くも悪くも決められていることや制約が少なく、ある程度の自由が担保されている時期。人生のモラトリアムとも言われている。
そこでは人の行動は人により大きくわかれることになりながら、他者と比較することをやめられないから、羨望と嫉妬が渦巻いていく。

それらを含めた映し出されるもの全てが青くて痛くて脆いものたちであり、人として生きる以上、誰もによぎるものがありそうなものでもあり、それらがカーストを交えながら描かれている。

田端と秋好の関係性は、描き方や設定とかは全然違うけど、韓国映画『バーニング 劇場版』のジョンスとヘミに近しいものを感じた。

さらに、メンバーを集めるにしても、大学生だと就職活動をベースにしないと、なかなか興味さえ持ってもらえない意識高い人たち側の難しさなんかもしっかりと描かれているように感じる。

普通におもしろかったし、わりと心揺さぶられるものがあった。
この痛々しさは、できるだけ若い頃に経験して認識しておきたいものだなと。
キミスイと比較すると、よりおもしろい!

P.S.
吉沢亮さんと杉咲花さんはじめ、若手注目株総動員のキャスティングが贅沢かつハマりすぎてて、めっちゃよかった。
吉沢亮さんは学生時代のエピソードとかを聞いてると、こういう役の方が意外と等身大なのかなとも思ったり。
岡田拓朗

岡田拓朗