しん

のさりの島のしんのレビュー・感想・評価

のさりの島(2020年製作の映画)
3.3
静かな映画です。そのなかで甘美なノスタルジアと甘くない現実の葛藤が丁寧に描かれています。地方は素晴らしいという単純な話ではなく、よく言われるステレオタイプに抗う演出が施されていました。

象徴的な表現として、レコード屋の息子(藤原季節)がすぐに若者の輪に溶け込んでいく点があります。地方といえば人々の繋がりが強く、誰でも他の人のことを知っているというイメージがありますが、レコード屋に息子がいたかどうか、作品の終盤まで誰も気づきません。ゴーストタウン化した街では、もはや隣の人との繋がりなど失われているのです。地方の繋がりとは、隣にもその隣にも家が連なっているからこそ現出されるのです。そんな当たり前のことに気づかされました。

次に若者にとっては、(幻想としての)活気は恐怖なのです。ラストでラジオパーソナリティのヒロインが象徴的な表現をしますが、まさに囚われた空間から抜け出せないのは、愛ではなく恐怖です。地方愛はそのすぐ横に囚われの恐怖が同居しているのです。

単なるPR映画ではありません。素晴らしい出来でした。
しん

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