ボブおじさん

街の灯のボブおじさんのレビュー・感想・評価

街の灯(1931年製作の映画)
4.8
完璧主義者として知られるチャップリンが監督・制作・脚本・編集・主演、そして初めて自ら音楽を担当し、製作に3年の月日をかけて完成させた歴史的傑作映画。

映画の教科書のようなオープニングからの掴みの演出。大爆笑のボクシング場面や、涙なしには見られない感動的なラストシーンなど、映画史に燦然とそのタイトルを刻み、今なお世界中の人々を笑いと涙で包み込む映画芸術の結晶。

映画界には天才と呼ばれる人が数多くいるが、真の天才とはこの人のことだろう。
笑いを数値化することはできないが、おそらく全人類(地球誕生以来)で1番多くの人を笑わせ・感動させた人ではないか?

チャップリンが出演・監督した公式映画は82本あるらしい。その全てを見たわけではないが、有名な作品は全部見てきた。その中で自分が1番好きなのがこの映画。

1931年の映画だが、今見ても十分面白い。初めて見たのは小学生の頃だった。子供が見ても理解できる内容だったが、大人になって見ると脚本と構成、細かい演出など見るたびに感心させられる。

ヒロインが登場する前のオープニングで、本筋とは関係ない小さな事件(エピソード)を完結させ、観客の心を一気に掴みメインストーリーに入って行く演出は、現在でも「007シリーズ」などに使われているが、チャップリンは90年以上も前にこの手法を生み出している。

この映画に限らずチャップリンの映画は、オープニングとラストが実に上手い。それが映画において如何に重要であるかを十分認識していたのであろう。

花売りの娘との出会いのシーンも上手い。2度の車のドアの開閉音で、娘が彼を金持ちと思ってしまうシーンが不自然さなく描かれている。当然だがセリフは一切ない。
娘はチャップリンのことを疑いもなく金持ちの紳士だと思ってしまう。

中盤は、自殺願望がある飲んだくれのクズ男が有り余るほどの金を持っている皮肉や理屈抜きに笑えるボクシングシーンなどのドタバタ劇が続き、一切飽きさせない。

ラストも見事だ。娘の目が見えるようになることはハッピーエンドなのだが、同時に自分のみずぼらしい姿を晒すことになる。目が見えることは別れを意味する。子供ながらに愛とはどういうものかを教えてもらった。

90年以上も前の映画に、点数をつけるのもどうかと思うが、今見ても十分鑑賞に堪える完成度の高さに感心させられる。