アンタレス

街の灯のアンタレスのレビュー・感想・評価

街の灯(1931年製作の映画)
4.3
一人の浮浪者が居た。パーマ頭にハットを被り、ダボダボのズボンに小さな上着。ステッキを持ちガニ股で歩くその姿は、滑稽さの中に紳士然とした威厳を備えている。その浮浪者は、一人の女性に恋をした。光を失いながらも健気に花を売る女性に、心の底から恋をした。男は浮浪者ではなく、紳士として振る舞い献身の限りを尽くす。
女性が住居を追われないよう、そして光を取り戻せるよう、伝を頼り体を張り、工面できた1000ドルを手渡した後、その場を去るのだった。


初めてチャップリン作品を観賞したのだが、ただ感動するばかりだった。
冒頭のシーンは、この作品がサイレントであることをスムーズに伝えているように思う。セリフが無いため、最も重要な部分のみ字幕を入れ、あとは全て演技と音で表現する。この冒頭のシーンは、作品の魅力を取り溢してしまわぬよう、観賞する者もそのつもりで観るようにというメッセージのように感じた。
コメディ要素と恋愛要素がこの作品の陽の部分であるが、とても素晴らしい。
普遍的なテーマである恋愛については、昔も今も変わらず楽しめるのは理解できる。
しかし、コメディは時代の変遷と共に質が変わると思っていたのだが、チャップリンのコメディは今観ても、そして恐らく子供が観ても楽しめる。日本では、ドリフのコントがチャップリンの芸風に近いだろうか。
無償の愛と時代を越えて楽しめるコメディ、これを両立させるチャップリンの技量は正しく喜劇王である。
そして、陰の部分。これは、もっとチャップリンの作品に触れなければ、初めてチャップリンを観た今の私では理解しきれていないのだろうと思うが、皮肉の効いたシーンは散見できた。
チャップリンの代名詞である、『小さな放浪者』。これは、浮浪者でありながら優雅に振る舞い、権力を嘲るという皮肉であるが、これがホントに面白い。もっとこの浮浪者の人生を見てみたいと思ってしまう。
さらに、この作品では富豪の男と交流するシーンがあるが、富豪が酔っているときは友と呼んでくれるが、素面に戻ると冷たくあしらわれる。これは、富豪と浮浪者の決して破れない隔たりを表しているのだろう。
『街の灯』は、正真正銘の傑作だった。
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