阪本嘉一好子

Salt of This Sea(英題)の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

Salt of This Sea(英題)(2008年製作の映画)
5.0

この難民は自分の意思で自分の住んでいるところを捨てて他国に移るわけではないから、一般的に自分の土地に対する執着がより深い。パレスチナ三世のソラヤは米国に住んでいても母国語アラブ語を保っているし、問題点よりいい面に憧憬が深く、そこを訪問したいと思う気持ちが強い。二週間のビザをとってイスラエルに入国。ソラヤはそこからパレスチナに行くのが夢だった。米国に住むパレスチナ三世が自分の足跡をたどるという映画を私は初めて見た。監督も海外在住をし、今、ヨルダンに住んでいる(?)パレスチナ人であるから、ソラヤに身を置き換えてこの作品を作ったのかもしれないと思ったら、後でわかったことだが、この主役の役者(Suheir Hammad-詩人)の人生の方がソラヤに近い。

パレスチナ自治区のウエストバンクのラマッラーRamallahを訪問するニューヨークブルックリン生まれのソラヤ。彼女の両親はレバノンからの米国への難民、そして、祖父はパレステナ、ヤファJaffa(今はイスラエルの土地)からレバノンへ来た難民だ。祖父は60年前(1948年にイスラエルがユダヤの国をつくった。パレスチナ人を追い出し始めたから計算があう)イスラエルによってヤファJaffaを追い出され、レバノンに向かったらしい。(自分の住まいを追い出されるなんて見当がつかないが、)ソラヤは小さい頃きっと家族から何度もパレスチナの話を聞かされていたのに違いない。1948年の祖父の銀行口座に金がまだあるはずでそれをもらいにブリティシュパレスタインバンクに行くが、口座があまりにも古すぎて凍結されているから銀行側が却下する。
祖父はオレンジの貿易をしていたらしく、Jaffa Orange で有名だったと彼女は難民のエマッド(パレスチナ人でカナダへ奨学金の留学が決まったがカナダからのビザが却下)の話すが、エマッド(Saleh Bakriーオマールの壁の主役アダムの兄) の方は17年間も海に行ったことがないし、行くには許可書がいると。許可書が出なければどこにも行けない彼(パレスチナ人)にとっては、ソラヤの郷愁は戯言のようで、現実的ではなく夢を見ているような話だ。
真実を追求したがるソラヤに『パレスチナで真実が誰かを助けるか』と。そして、『パレスチナはオレンジだけじゃないよ』と。


この二人の温度差を解消するかのように、この戯言の片棒を担いで動き出していくエマッド。許可書がなければ行けないイスラエル地区に繰り出していくが、ソラヤのルーツ、祖父の家はヤファJaffa は海のそばで高級住宅地の一角で美しい。(だから彼女の家族はレバノンに出て米国に難民申請できたのかも。1924年にパレスティナのヤファだったという建物も保存されている。ヤファは伝統的な綺麗なまち。
でも、エマッドのルーツ、ダワイマDawaylima(Arabic: الدوايمة‎-1948年にイスラエル軍によって略奪され、その時人々が殺された村)は山のなかの廃墟で、国立公園に指定されているとかで、歴史的遺産になっている。

好きなシーンがたくさんある。エマッドとソラヤの会話が全部好きだが、最後が圧巻だった。エマッドがソラヤを凝視し続けるシーン。ソラヤがイスラエルの検問所で、次々通る車の中をみてエマッドを探し続けるシーン。文化上(?)愛を肉体的に表現するのが少ない二人だが、二人は将来のことををかたっている。これが、政治的理由が土台で引き裂かれてしまう。虚しいが、この二人の最後のシーンから、私はなにか希望を見出そうとした。何日もかかって、なにか二人が一緒になれる方法がないかと考えた。
あまりにも切ない恋愛映画でこころが癒されず、娘を誘ってもう一度見た。『ロミオとジュリエット』だねと娘は言ったが、私は娘に『なにかいい方法がない?二人が結ばれるには』と。