うっちー

Swallow/スワロウのうっちーのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
4.2
 このポスターからしてなんか好みで気になっていた。ストーリーを聞いてますます惹かれて、遠くの館まで観に行きました。公開館少な過ぎる‼︎

 最初から好みの映像、色合い。有名な俳優さん、というか知ってる人はほとんど出ていないけど、映像もストーリーもめちゃくちゃ好みでぐいぐい引き込まれる。

 ちょっとレニー・セルヴィガーみたいな主演のヘイリー・ベネットは、ニューヨーク郊外の美しい邸宅に住む若奥様、ヘンリー。会社役員の夫のために家の中や外を整え、自らも美しく身支度をし、毎日ゆったりと幸せに暮らしていた、ように見えたが、実際は心は空虚で、どうにもならない寂しさを感じていた。夫は彼女に無関心でろくに彼女の話を聞こうとせず、夫の両親も同じく彼女に無関心かつ、どこか軽く見ているような冷たい態度をとる。

 そんな彼女が魅せられたのはガラス玉や工具などの異物を飲み込むこと。この恐ろしい行為を、なんとも美しく、魅惑的にみせていくこの監督。質感、音、温度、味、触感などが、克明に、そして美しく再現されていって、本当に見事。最初のうちはまだ良いのだけど、しまいには錐みたいな工具まで飲み込んでしまうヘンリー。常人には理解できないことだけど、彼女の切羽詰まった表情を観ていると、それも不思議ではない、という風に納得させられるものがあるから不思議。それだけ、このヘイリー・ベネットの演技は憑かれた様に自然なのだ。

 ある意味、『82年生まれ、キム・ジヨン』のジヨンの憑依のような、女性ならではの生きる上での苦しみの表出なんだろうけど、ヘンリーの苦しみは、より個人的に深いものがあり、それが後半に明かされる。また、病がわかってからの夫や義理の両親の態度が段々と酷くなり、病院に連れて行こうとする場面の酷いこと💢 それに心動かされたシリア人の看護師男性の機転が、彼女を解き放つことになる。ここは凄くスリリングかつ痛々しい。

 ヘンリーの根源的な苦しみは途方もない悲劇から始まっていて、それに対処せずにいたことが尋常でない抑圧を呼び込み、そこへきての結婚相手とその家族からの抑圧。そりゃあふつうで居られないでしょう。だからこそ、終盤の彼女の行動力と勇気が胸をうつ。でもこの選択、あのアメリカでは物議を醸したんだろうなぁ、と。

 しかし、このくらいの強度で描かれたからこそ、こちらの心を動かすのだろうし、しかもそれが危ない美しさに満ちているのだから魅せられてしまう。

 新年二作目ですが、かなり満足しました。先端恐怖症やなんらかの強迫性障害のあるかたは気をつけてご覧になった方が良いでしょう。
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