なべ

Swallow/スワロウのなべのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
2.9
 もはやジャンル映画として確立された感のある、女性の自意識と異常性を描く女性猟奇映画のひとつ。
 初めてこの手の映画を見た人はショックだろうけど、RAWやテルマを見てきた目にはなんとも中途半端。てか雑。
 スタイリッシュなのは最初だけで、後半はおしゃれを忘れてしまって底の浅さが露呈してしまった感じ。もちろん虚飾に塗れた前半はカラフルで、呪いの解けた後半は現実的な色味にしたかったんだろうけど、力量のある監督ならひりつく現実もスタイリッシュに描けるんだよね。前半は無理してたのねと思って監督の顔をググってみたら、あー、そういうツラねとなんかいろいろ合点がいった。メガネ、ロン毛、ヒゲ…っておい!ぼくとおんなじじゃん。
 実はぼく自身、幼児期に異食症(主に襖を破いて食ってた)だったので、この障害のことはよく知ってる。知ってるだけに、ストレスの描き方が甘いなと。まず、家族の描写が類型的で工夫が足りない。主人公が嵌まるストレスフルな状況というのはこういうわかりやすい家族ハラスメントでは幼稚過ぎる。こんなあからさまな構図に引っ掛かる観客は子供だけだ。圧をかける側も善意でそれをやっていて、どこを見渡しても悪意がないというところに出口のない袋小路が生まれ、そこで葛藤するのが令和のストレス。これじゃ平成でもなく昭和だよ。おしゃれ路線だからそこは記号的に薄味に行くのかと思ったら、途中からおしゃれもやめてしまったというね。
 主演のヘイリー・ベネットが何とも印象的で、彼女の独特な存在感でなんとか最後まで観られたって感じ。何かしでかしそうな危うさは、聖なる鹿殺しのバリー・コーガンやビョークにも通じる妖しさだ。逆にいうとそれ以外は見るべきところがない映画。
 飲み込むって行為をもっとスリリングに、もっと魅力的に、もっとエロく(リビドーっぽく)見せられるはずなのに、監督の理解が浅いのか、ちっとも満足できない。一応、氷食を経て、各種異物、さらに土食と、まるでWikiったような症例をなぞってはいるものの、どこか説明的。
 特にハンターの母親の出産にまつわる話や実の父親のエピソードにはがっかり。そんな特殊な事情が彼女をこんなふうにしたの? そんな陳腐な説明シーンが我慢ならない。誰でも陥るかもしれないすぐそこにある現実の罠が、この描写のせいで完全に他人事になってしまった。けっこうポピュラーな症候なのに。
 別に確固とした原因を知りたいんじゃない。「なんかわかる」「自分もそうかも」「わたしもビー玉飲んでみたい!」と、観客を誘い込む引きが大事なんじゃないの? そうした衝動への共感がこの手の映画の肝じゃないの?
 ラスト、トイレで回収されなかったもののシーンでチラつく監督のドヤ顔が目に浮かんでもう…。
 狂信的な母の娘、上流階級の夫の妻と、これまで自我を持つことのなかった彼女が、父親との出会いと訣別で得た自分自身。自分につながる属性を断ち切るため、取った選択(堕胎)は、どうにも幼い行為にしか思えない。胎児を一個の人格ではなく、自分、そして夫とその家族、さらには母をレイプした父親に属するものと捉えてるあたりが、まだ彼女は呪いから解けてないんだなと危うさを感じさせる。
 ぼくの異食症は程なく治ったが、ハンターはこれからも飲み込み続けるのだろう。

 まだまだ続くコロナのせいで、新作の公開が少ないなか、2021初の劇場映画がスワロウだったのは、ちょっと残念だった。まあ、デビュー作にしてはいい方なのか。
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