あんず

シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~のあんずのレビュー・感想・評価

4.4
観なくても内容が分かるような気がしてしまいスルーしそうだったけど、「待てよ、私は歌も合唱も好きだから、それだけでも楽しめるのでは?」と映画館へ。いや~、観て良かった。

歌は人の心を一つにするというのが、決して絵空事ではないということを証明してくれた。遠足で雨宿りした洞窟で、自然と誰かが歌い出していつの間にかみんなで合唱して行くというシーンは、観ているこちらまで楽しくなる、歌うことの原始的な楽しみを思い出させてくれる名シーン。そして、ラストの追悼式の合唱シーンは、誰かを想って歌う歌は、歌っている人たちだけでなく、聴いている人たちの心をも一つにする奇跡を起こす。

事実を基にしたイギリス軍の基地に暮らす軍人の妻たちのお話だから、余計に説得力があった。最初からセンスの良い音楽と美しい風景に期待は高まり、よく考えたら、基地の中の暮らしって全然見たことなかったなと思い、妻たちの暮らしそのものがすごく新鮮で興味津々。多分、基地の外で仕事をしてはいけなくて、夫や軍を支えるのが妻の仕事。夫たちがアフガニスタンへ任務で行ってしまい、残された妻たちは心の安寧と結束のために何かをしなければいけないみたいで、個人の意志に関わらずリーダーまで決まっている(夫の役職で妻の役割も決められちゃう)。

そうして始まったのが、ケイトとリサを中心にした合唱団。考え方も性格も全然違う2人で衝突しがちだけれど、家族や基地で暮らす仲間を想う想いは同じで、段々と打ち解けて行く。映画だからなのかもしれないけれど、海外の女性は歯に衣着せぬ物言いをし合うのに、その後に謝るとスッキリ仲良しみたいなことが多くて羨ましい。個性豊かな女性たちの本音のやり取りが観ていて気持ち良かった。そして、自分の心に蓋をして悲しみをうまくやり過ごそうとしてはいけないんだと強く感じた。悲しい時には悲しまないと。

堅物なケイトが意外にも色んな服を着こなし、ファッションも楽しめた。リサが「戦争と結婚した」と言っていたのが衝撃的だった。追悼式のオリジナルソングはすごく素敵で、現実の合唱団のオリジナルソングは全英1位を獲得したこともあるらしい。ジーンと心に温かいものをもらったけれど、今日も無事を祈る軍人の家族たちが世界にいることを考えると、複雑な気持ちに。本当に彼女たちの日常と、死の報せは隣り合わせだったから。
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