ロッツォ國友

スカイ・クロラ The Sky Crawlersのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

3.8
いつも通る道でも、違うところを踏んで歩く事ができる。
いつも通る道だからって、景色は同じじゃない。
それだけでは いけないのか。
それだけのことだから いけないのか。


ンン〜非常に濃いねえ!
アニメなのにここまで徹底して大人向けに作り込まれた作品があるでしょうか?
よくある"大人も楽しめるアニメ"という感じではなく完全に大人の為のアニメ。
主人公達、みんな子どもなのにね。


2008年の映画でありながら、チャチさを感じさせない圧巻の空戦シーンが見事!
どの機体も実在の軍用機を模していながら個性を感じさせるアレンジが施され、リアリティとオリジナリティの調和がカッコ良さを増大させている。
"散香"は日本海軍の局地戦闘機"震電"がモデルですかな??主人公陣営の機体が全て前翼型だったりする辺り、デザインの整合性とかにもかなり気を配っていることが伺える。


しかし何より本作を印象付けているのは空戦そのものではなく、本作の主人公達「キルドレ」の存在。

大人が始めた争いごとの為に、大人が整備した兵器に乗り込み、大人と殺し合う。
大人のように酒を飲みタバコを吸い娼館で遊ぶが、しかし決して大人にはなれないという隔絶と矛盾の中で生きるキルドレ達の苦悩が、本作の雰囲気に独特な重みを与えている。


自分は何者なのか?
何の為に生きるのか?
という問いが彼らを生かし、惑わせ、そして蝕んでゆく。

人や動物が産まれるのには生物学的反応であること以外にあまり理由がない。だからある意味、どうとでも捉えて生きていける。

しかしキルドレ達は違う。
生まれた理由も役割も完全に決められていて、自分達で考え選ぶ事はない。
理由が明白すぎるが故に答えを探す過程も迷いもない。

"生きる"という営みの中で、目的と手段を設定していける人間達と異なり、キルドレ達は大人が決めた目的の為だけに、純粋な"手段"としてのみ産み出され生きるのだ。
自由に感じ、考え、行動できるはずの感性を持ちながら、戦闘員としての在り方だけに縛り付けられる窮屈さ。

子どものままで居続け、終わりのない戦いに身を投じながら、何を以て自分が生きていると実感するのだろう。
何の理屈で自分を肯定できるのだろう。


……そういった入口も出口もない苦悩の中に居ながら、殆どの場面でとにかく淡白に過ごすキルドレ達。
世界はどうなっていて、"企業"が何を意味していて、どういう政治背景で彼らが戦っているのか、全くと言って良いほど描写がない。
だから本作の戦争がどこに向かっていて、何から始まりどう終わるのかも全く分からない。

最初からそんなものはないのかもしれないけど、だからこそ短い生を繰り返す彼らにとってこの戦争から特別な意味を見出すことはない。
知らぬ間に始まったものに支配され、どこに向かっているのか分からぬまま殺し殺される日々を繰り返しているだけ。
だからそもそもなぜ戦争しているのかなんて、実は彼らにとっては最初から無意味なのかもしれない。


苦悩と空虚さとを胸に抱えたまま生きる彼らの痛みが胸を詰まらせる。
そんな行き場もやり場も救いもない彼らの唯一の安息の地こそ、空なのではないか。

殺すこと、殺されることから避けられない場所であっても、彼らは飛ぶことだけは躊躇わなかった。
その残酷さと、雄大に広がる爽やかな空との対比が痛ましくも眩しい。

いつもの道を歩き続けても、ずっと同じではいられないし、きっと同じであるべきでもないのかも。



大人向けとは聞いていたもののここまで大人的目線に徹した作品とは……
小説と共に、どちらかというと隠れた名作的な扱いだけど、もっと沢山の大人が観て色んなことを語らう方が面白い作品じゃないですかね?
テレビとかでも定期的にやらねえかなぁ。
ごっつぁんした。
ロッツォ國友

ロッツォ國友