TaichiShiraishi

100日間生きたワニのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

100日間生きたワニ(2021年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

みんながSNSで何気なく楽しんでいたコンテンツが、実は電通案件だった。SNSでただで見られるからみんな見ていた。毎日少しずつの更新で見られるからこその醍醐味だった。



このような公開前から言われていた批判などに見られる映画化の際の懸念点は、作り手は当然わかっていただろう。『カメラを止めるな!』を作り上げるような映画の構造を熟知している上田監督ならなおさら。正直無茶ぶりに近いような企画だが、針の糸を通すような繊細さで、しっかりオリジナルの映画作品として非常に味わい深い良作に仕上げていたと思う。



もちろん大コケしているので、商業作品としてはちょっとまずいかもしれないが、見てみれば本作が話題先行ではなく、しっかりとしたメッセージ性を持って丁寧に作られているのはわかると思うし、満足度は高いのではないか。



主人公のワニが死んでしまうのはもはや既定路線として、しっかりと、「その後」の喪失感と再生の物語をオリジナルで足していて、それがお涙ちょうだいに走らずに抑制のきいたトーンで語られている時点で、もう映画としてはけなす気にはなれない。



映画オリジナルのキャラクターとして、バラバラになってしまった各メンバーを再びつなぐ異物的キャラのカエルを演じた山田裕貴を白眉として、神木隆之介、中村倫也らの声の演技も素晴らしく、オフビートな笑いのセンス、あえてのチープなアニメゆえの味わい深さ、日常から地続きの唐突な悲劇の描き方など、なんだかんだ映画の肝がわかっている人でないと作れない絶妙なバランス感覚が光っていて、最後までしみじみ楽しめた。



63分という尺、後半は本当にほとんど登場しないワニ、不自然な説明のない会話劇の妙など、電通がかかわっているとは思えない引き算の美学が光る秀作だった。
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