永遠の寂しんぼ

護られなかった者たちへの永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
4.2
『作為と不可抗力の狭間』

原作は未読。
震災という不可抗力と社会制度の歪みの中で起こった悲劇を役者陣の見事な演技で体現した社会派映画。生活保護の不正受給や行政側の苦悩を描く事で物語のバランスも取れていたと思う。ただミステリーとしてはちょっと微妙かな…。

そこまで生活に困窮している訳でもないのに生活保護を不正に受給している人がいたり、逆に本来受給できる人が色々な理由でそれをできなかったり、生活保護に関する問題は現実のニュースとかでもたまに議題になる事があるし、映画で描く価値のある事だと思う。それに加えて今作では東日本大震災によって厳しい状況に置かれた人々も描かれている。同じ震災を描いた映画として、これの少し前に観た『岬のマヨイガ』では被災者の描き方として、『苦しんでる人が非現実的なファンタジー展開を通してそんな簡単に前向きになれるのか?』という疑問があった。が、今作はその点に関しては納得のいく描写があったと思う。本当に苦しい中でも佐藤健演じる三雲に手を差し伸べてくれた倍賞美津子さん演じるおばあさんの優しさ。『岬のマヨイガ』では家を失い苦しい状況の筈の主人公達がマヨイガでご馳走を食べるファンタジー展開に違和感があったが、今作では対照的におばあさんが出してくれた何の具もない素うどんを三雲が噛み締めるように啜るシーンが印象的だった。

そのおばあさんは震災の中である事情で生活保護を受けられない中、悲劇的な最期を迎えるわけだが、おばあさんをある意味見捨ててしまった役所の人間の立場を考えるのも重要。意図して『護らなかった』のか、あるいは手は尽くしたけど状況がどうしようもなくて『護れなかった』のか?このどちらともあり得る歯痒さが、震災と生活保護という難しい題材を選んだ映画の人間ドラマとして、見応えがあるものだったと思う。

役者陣も素晴らしい。佐藤健や林遣都は言わずもがな。三雲を追う刑事役の阿部寛は…演技は勿論良いんだけど、正直滑舌が悪くて何言ってるのか聞き取れない部分があった。その刑事自体も三雲を追いかけて取り逃したり、ちょっとどうかと思うような部分もあった。あとはこの映画で一番褒めたい事が終盤にあるんだけど…、それはネタバレ無しでは説明できないので割愛。

という事で、社会派ドラマとしてはよくできてる映画だとは思うものの、ミステリーとしてはあまり褒められた出来ではないかな。正直勘の良い人なら中盤でオチが読めちゃうと思う。それにミスリードの為だけにあるような変なシーンもあったし。もう少しあの人にまつわる設定をぼかしたり、他の人物を使って終盤までオチがはっきりとは読めないような作りにはしてほしかったかな。

それと僕の場合は観た条件も悪かった。それは今作の原作者が中山七里先生だと事前に知っていた事。この人は『どんでん返しの帝王』と呼ばれるくらい驚きの展開を入れるのを得意とする作家で、同じ中山先生原作の僕が1年前に観た『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』でもどんでん返しと言える展開があった。(まぁアレに関しては原作からの改悪点が相当あるらしく、僕のその年のワースト映画になったが) なので、この映画を観ている最中も、「多分これはミスリードで、どこかでどんでん返しが来るんだろうなぁ」と、先入観有りで観てしまったのも、オチが読めてしまう要因だった。

トータルで評価すれば、小説原作のシリアスめの邦画としては充分良作だと思うし、考えさせられる点も多いから普通に観る分にはオススメです。