こたつむり

護られなかった者たちへのこたつむりのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.1
♪ アヴェマリア
  今もあなたの声は聞こえる
  優しく目を閉じた眠るむくろに 深く響け

本作が問い掛けたのはシンプルな話。
東日本大震災を背景に生活保護の在り方を描いた物語です。生活保護は最低限必要な文化的な生活を送るためのセイフティーネットですが、実際の運用で良い話を聞きません。

受給までの審査が厳しすぎるとか。
半ば強引に辞退させられるとか。
日本全体で“余裕を失っている”昨今、不正受給を取り締まる気持ちも相俟ってハードルが上がっているのは事実です。

だから、本作が存在する意味はあるのですが。
正直なところ、本作をきっかけに“声なき人”が声を上げるか…と問われると首を傾げてしまうのも事実。どちらかと言えば、生活保護対象者以外に向けた物語だと思いました。

何しろ生活保護対象者は観る余裕はありません。
だから、理屈よりも感情を優先させた方が良いと思うんですよ。「これが日本の現実です」なんて登場人物に語らせるよりも、それを“ビジュアル”で見せる方が先じゃないかな…と。

「この世は腐っている」
と言われたら「そうですよねえ」と返しますが「よーし、パパ、世直ししちゃうぞ」となるかは別の話。その領域に踏み込むには“あと一押し”が必要なのです。

喜びでも怒りでも悲しみでも。
感情が動き、それを誰かと共有する…そういうプロセスを経ることで人間は“動機”を作り、実行に至るのだと思います。

まあ、そんなわけで。
震災と生活保護が縦軸、殺人事件が横軸。
瀬々敬久監督の優しさと強さを兼ね備えた筆致と相性が良い原作…だったと思いますが、理念だけが先走ったのが残念。良くも悪くも“考えるキッカケ”として捉えたほうが吉です。

なお、役者さんたちの熱量は圧倒的。
生活保護を受ける立場となる倍賞美津子さんも然ることながら、主演の佐藤健さんは見事な限り。色々な役柄に挑戦できる…それってスゴい話です。あと、林遣都さんが地味に“イヤな感じ”で、とても似合っていると思いました。
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